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メモリーズオフ6T-waveレビュー

総評以外は超ネタばれなので、プレイ前の人は読まないことを勧めます。

総評

簡潔にまとめれば、荒削りだが新たな挑戦を試みた意欲作でもある。 商用シリーズ6作目で「荒削り」と言われるのもどうかと思われるが(笑)。

本作では、ヒロイン視点が有効に活かされていない。 5thでは、シナリオ展開上の重要なエピソードが主人公の知らない所で生じており、それが明らかにされるということでヒロイン視点が大きな存在意義を持っている。 しかし、本作のヒロイン視点では、既に分かっていることか、あるいは、些細なことしか描写されていないため、ヒロイン視点の存在意義が失われている。

各部の描写のチェックが甘く、大小さまざまな矛盾が生じている。 また、初期設定も希を衒い過ぎて、常識的に無理が生じている。 シナリオ展開上の必要性もないので、何の為にこのような採用を設定したのか理解に苦しむ。 これらの矛盾や無理により、本来のメモリーズオフの持ち味であるリアリティが大きく損なわれている

ちょっと待て、2ndの希望エンドや5thの早蕨美海の設定の何処にリアリティがあるんだ?・・・と言う人もいるだろう。 確かに、これらの設定を科学考証すればリアリティに欠ける。 しかし、ギャルゲーに求められるリアリティは、人間心理や人間関係のリアリティであって、科学考証上のリアリティではない。 科学考証上のリアリティを求めれば、SF設定やファンタジー設定はギャルゲーと相容れなくなる。 しかし、SF設定やファンタジー設定は多々存在し、これらは、設定を理由としてギャルゲー失格となるわけではない。 よって、ギャルゲーには、科学考証上のリアリティは必須ではないと考えられる。

過去作では、少なくとも、人間描写については、極めて高度なリアリティがあった。 しかし、今作では、そうした部分のリアリティが大きく損なわれている。

個別ルートを見ると、りりすルートはメモリーズオフの悪い所しか見受けられない。 いや、佐賀亨の漢っぷりは特筆すべき長所か? 智紗ルートは、初期設定さえ除けば、良くも悪くも普通のメモリーズオフ・クオリティだろう。 クロエ・結乃・黎音ルートは、今までのメモリーズオフにない良さを模索していると言える。 ただ、この3人の心の傷が決して浅くないのは理屈では分かるが、傷の深さを感覚的に実感させてくれる描写が少ない。 そのため、メモリーズオフ独特の重厚さが少し物足りない。 その辺りをしっかりと描写すれば最高傑作と呼べただろう。

原点回帰?

ライターのお一人のブログに驚くべき事実が書かれていた。

幸い自分の担当箇所の評価はそれなりの評価をいただけているようなので、まずは安堵。
それほど深く本編に絡むキャラではなかったので、気楽に書けたのがよかったのかと。
ただ、逆に不整合を恐れるあまりに他のキャラとの絡みを最低限に抑えざるを得なかったところが心残りです。

打ち合わせで細部の擦り合わせを行なっていれば、不整合を恐れる必要はない。 つまり、不整合を恐れるということは、細部の擦り合わせを殆どやっていないということである。

これは、3rd〜5thとは明らかに制作方法が違っている。 3rdは緑犬ふう氏が全シナリオを手がけたようなので、とくに打ち合わせなくとも、各シナリオ間の整合性は取れるだろう。 4thや5thは、共通する1つの事件が全ヒロイン、もしくは、多数のヒロインに関係してくるため、擦り合わせなしには辻褄を合わせられない。 そして、各ルート間の致命的な矛盾はなかったことから、細部の擦り合わせをきっちりやっていると思われる。

確かに、1stや2ndでは、個別ルートに入った途端に攻略ヒロイン以外のキャラの登場頻度が激減していた。 シナリオ展開上どうしても避けられない部分でメインヒロインが登場することはあっても、それ以外では、不思議なことに、サブキャラの登場頻度までが極端に減っていた。 これは、本作と同様に、細部の擦り合わせを殆どやらなかったために、「他のキャラとの絡みを最低限に抑えざるを得なかった」のだろうか。 もしかして、原点回帰ってこういうこと?

共通ルート

友達以上恋人未満

普通、「友達以上恋人未満」と言えば、相手のことが好きで、かつ、相手もまんざらではなさそうで、それでも、勘違いだったら今の関係が壊れかねないと、一歩先に踏み出せない状態を指すのであって、それは、当人達の意に反して生じる人間関係である。 それは、ちょうど、塚本志雄と遠峯りりすのような関係である。 決して、告白し、相手の同意を得て、意図的になるような関係ではない。 「友達以上恋人未満」を求める箱崎智紗もどうかしてるが、OKする塚本志雄もどうかしてる。 常識で考えて、意図的に申し込んだりOKしたりする関係は、友達か恋人かのどちらかしかない。 片方が恋人になるまでの好意を持っていないなら、友達関係しかあり得ないのであって、「友達以上恋人未満」というのはあり得ない。

恋人になりたい程の好意を持っているのが片方だけで、かつ、恋人になる約束をしていないなら、好意の弱い方は、普通に、友達として付き合えば良いはずで、恋人らしい行動を取ろうと相手に気を遣う必要は全くないはずである。 それなのに、塚本志雄が箱崎智紗を朝迎えに行かないと遠峯りりすが怒るのは理不尽だし、それが理不尽だと思わない塚本志雄も変だろう。

試して気に入らないからサヨウナラ・・・で済むのならば、気は楽だろう。 しかし、どちらでも好きな方を選べという話ではなく、OKすることを半強要されている。 何もしなくても断り難いなら、少しでも思わせぶりな言動をしてしまったら責任を取らないわけにはいかない。 だから、恋人らしく振る舞えば振る舞うほど断り難くなる。 事実、遠峯りりすは、そうした既成事実化を画策している。 しかも、期限まで決められていて、じっくりと考える余裕が与えられていない。 これで、プレッシャーを感じない方がおかしい。 そんな状況で、本人の意向を無視して関係の進展を強要されては、日増しに、相手への嫌悪感が増すだけで、好意が増すことは決してない*1

「友達以上恋人未満」要請は、北風と太陽で言えば、北風作戦だろう。 それでは、旅人は、増々、コートに強くしがみついてしまう。ここで、取るべき作戦は、太陽作戦だろう。 敢えて、友達という立場で我慢しつつ、毎日、自分の魅力をガンガン見せつける、というか、多少誇張するくらいで魅力を演出するようにすれば、向こうが勝手に惚れてくれる・・・かも知れない。 男が好む仕草等を徹底的に研究して、可愛い女を演じることこそが、真っ先にやるべきことだったのだ。 もちろん、太陽作戦が必ず成功する保証は無い。 しかし、常識で考えて、恋人候補に北風作戦を使った時点で負けが確定しているのである。 にもかかわらず、北風作戦の結果、塚本志雄が箱崎智紗に惚れるなどということは、絶対に、あり得ない。

何より、塚本志雄のキャラが変わってしまう。 塚本志雄は、歴代主人公と同じく、非常に気が短い。 塚本志雄は、共通ルートでも、他のヒロインのルートでも、ちょっとしたことで不機嫌になることが多い。 冷静に状況観察をすれば、怒るような状況ではないと直ぐに分かる状況であっても、瞬間的に超不機嫌になる。 自分の感情をコントロールできず、察しが悪くて他人の立場で物を考えられない人間が、北風をポジティブに捉えることはあり得ない。 これでは、どう考えても、北風作戦は逆効果にしかならない。 まだ、春日結乃のような察しの良い人間であれば、北風をポジティブに解釈して、恋人関係に発展する可能性があるかも知れない。 あるいは、超天然で、この状況に全くプレッシャーを感じない能天気な馬鹿であっても、可能性はあるだろう。 しかし、塚本志雄のように、中途半端に生真面目で、察しも悪く、かつ、感情的になりやすい人間ではあり得なさすぎる。

クロエ・結乃・黎音ルートでは、直接的にヒロインに絡んで来ないため、毒にも薬にもなっていない。 りりすルートにおいても、あまり重要とは言えない。 よって、この設定の影響は智紗ルートにのみ及んでいると言える。 その智紗ルートだが、箱崎智紗が交際を求め、塚本志雄が「友達から始めよう」と答える・・・という普通の展開で何か問題があるのだろうか。 他のシナリオを含めて考えても、それが自然な展開であり、「友達以上恋人未満」宣言をする必要は何処にもない。 何の為に希を衒った設定にしたのか理解に苦しむ。

生徒会?実行委員会?

塚本志雄は遠峯りりすと佐賀亨と箱崎智紗に奏雲祭の実行委員会だと言って、生徒会室に訪れている。 席に着くと、その場で、後輩がプリントを配ってくれている。 春日結乃も隣に座っている。 その後、嘉神川クロエが来ると、全員揃っているか確認した後、「では始めましょう」と会議を始めている。 場所を移動した描写はない。 いや、別の場所で会議をやるなら、生徒会室に全員を集めるはずがないので、その場で全員揃っているのか確認するのはおかしい。 つまり、会議は、生徒会室で行なわれているのである。 しかし、生徒会室のテーブルの周りに椅子は7つしかないように見える。 実行委員は各クラスから1人選ばれているので、これでは、各学年2クラスしかないことになる。 しかし、地理的設定や奏雲祭の規模等から考えれば、各学年2クラスでは少なすぎるだろう。 常識で考えても、生徒会室に実行委員が全員入れるのはおかしい。これは、どういうことか。

実行委員の幹部会と考えてはどうだろうか。 しかし、だとすると、いつ、幹部が選ばれたのだろうか。 10月11日午前中に実行委員に選ばれ、その日の放課後は委員会が無かったはずである*2。 だとすると、10月12日に最初の会合となるから、まだ幹部は選ばれていないはずである。 生徒会役員だから自動的に幹部になった・・・と考えるのもおかしい。 塚本志雄はクラスから任意に選出されたのだから、そのことは生徒会にとっては予定外の出来事のはずである。 他の生徒会役員についても、実行委員に何人選ばれるかは予測不可能である。 また、初めから生徒会役員を強制的に幹部にする予定であれば、生徒会役員はクラス選出候補から除外されるはずであろう。 クラスから選出されてもされなくても、どのみち、会議に参加しなければならないのでは、 塚本志雄が佐賀亨達に恨み言を言っていることとも辻褄が合わない。

実は、実行委員会に先立って生徒会の会議をしていました・・・というのもおかしい。 放課後に開催するのであれば、先に全体会議をやって、その後、幹部会という流れはあり得るが、逆はあり得ない。 実行委員達に生徒会の会議が終わるまで待てと言うくらいなら、初めから別の日程で開催するはずである。

以上のように、生徒会の集まりとしても、実行委員会の全体会議としても、実行委員会の幹部会としても辻褄の合わない描写となっている。

また、これは、春日結乃関係の選択肢で、プレイヤーに混乱をもたらす。

  • 実行委員?
  • 生徒会?
  • クラスメート?

描写から判断すると明らかに「実行委員」が正解であるはずなのに、公式に正解とされるのは「生徒会」である。

知らない子だけど・・・1年生かな?
俺は一応生徒会役員ってことで、自分は知らないのに向こうから一方的に知られてるってことが多い。
本当は、あんまり目立つのって好きじゃないんだけどな・・・。
とりあえず適当な席に着くと、後輩がプリントを配ってくれた。
奏雲祭を成功させるには、にわかづくりの実行委員会だけでなく、生徒会の協力も必要不可欠だ。
少なくとも生徒会長のクロエ先輩はそういって、俺達に色々な下準備をさせていた。

自分が生徒会役員だから「一方的に知られてるってことが多い」と言っておいて、実は、「知らない子」も生徒会役員というのではおかしい。 春日結乃の役職は生徒会書記となっているのが、転校したばかりであるので、補欠選挙で選ばれたか、生徒会役員が前後期制でなければ辻褄が合わない。 1人だけ補欠選挙で選ばれたのであれば、注目を集めるはずなので、「知らない子」なのはおかしい。 また、色々な下準備をしていたならば、他の生徒会役員とも何度か顔を合わせているはずであり、 その過程で自分のことを認知した生徒会役員が「知らない子」となるのはおかしい。 また、選択肢の段階では、春日結乃が生徒会役員であることは明言されていない。 以上により、春日結乃が「知らない子」であるのは、彼女が生徒会役員ではなく、実行委員で初めて逢ったからとしか考えようがない。 これでは、公式な正解である「生徒会」を言い当てるのは不可能である。

???「ひどいですよ先輩、もう一緒に仕事やっているのに」

校内で迷うくらいなのだから、春日結乃が転校してきたのは極最近のはずであり、一緒に仕事をしたのも最近のはずである。それを憶えていないとはどういうことか。

ちなみに、公式サイトの春日結乃の紹介文では次のようになっている。

最近転校してきたばかりで、まだ学校に慣れていない。
文化祭実行委員の一人でもあり、そこで志雄と出会うことになる。

取扱説明書の文言は公式サイトの記述とほぼ同じだが1ヶ所だけ違う。

生徒会の一人でもあり、そこで志雄と出会うことになる。

もしかすると、当初の設定はただの実行委員だったのに、後から、生徒会役員に変更されたのかも知れない。

設定の辻褄の合わない所は他にもある。

実行委員長だけはこのに2年のクラス委員から選ばれて、俺たち生徒会役員と協力して企画を練っていた。

一方で、トライアングルルートりりすでは次のようになっている。

3学期からは生徒会役員は更新され、入れ替わる。1年生の役員達が新たに入って来るから、彼らのためにも今年のデータはきっちりと整理しとかないと。
クロエ「塚本はマジメね。やっぱりあなたが生徒会長になるべきじゃないかしら」
志雄「それは勘弁してください」
奏雲祭の後、クロエ先輩は事ある毎に俺を次期会長に推薦しようとするのだ。
生徒会長というのは、一応全校生徒による投票で決まるけど、クロエ先輩は校内において生徒からも教師からも絶対的な信頼を持つ。
そんなクロエ先輩から推薦されたら、本当に会長にされてしまうかもしれない。

双方が両立するとなると、次のようなケースしかない。

  • 1学期と2学期が前期で、3学期が後期
  • 3学期から始まる1年間が任期

1学期と2学期が前期で、3学期が後期・・・という分け方は期間や行事のバランスからあり得ない。 3学期から始まる1年間が任期と考えるのも人材確保の面で見て無理がある。 3年生は卒業するから任期を全う出来ないし、2年生は翌年度は受験生となり、実質的に現1年生しか立候補を期待できない。 学生の自治組織としても、2学期まで役員が新1年生にとって入学前の選挙で決まっているのはおかしい。 いずれにせよ、辻褄を合わせるのは困難であるし、どちらでも春日結乃が生徒会役員であるのはおかしい。 次のようなケースでも辻褄が破綻する。

  • 3期制
  • 3年生役員は特例で交替

3期制ならば、春に選ばれた委員長と「俺たち」生徒会役員が協力して企画を練っているのはおかしい。 3年生役員だけ特例というのも、3学期からの交替では時期的に遅すぎるし、主要な行事は終わっているから残った役員で代行可能なはずである。 また、「3学期からは生徒会役員は更新」という言葉の意味からも、2学期末で任期満了と考えるのが妥当だろう。

これは、この時期に3年生を生徒会長にするという無理な設定に問題がある。 常識で考えて受験や就職で忙しい3年生が生徒会長になるはずがない。 前後期制の前期だけ生徒会長になるのであればあり得ないとまでは言えないにしろ、2学期一杯まで生徒会長をやっていることは常識ではあり得ない。 だから、素直に、親の経営する会社に努めるから受験や就職活動は不要・・・としておけば良かったのである。

発注ミス

結乃「この布、調べてみたらメーター当たり1200円だったんです!」
志雄「ええっ!?」
クロエ「ファイルごと、他の資料に埋もれていてね。私もそこまで目が届いていなくて・・・」
結乃「わたしが別の資料を探している時に、たまたま見つけたんです」
結乃「それで・・・友達に、こういうの詳しい子がいて」
結乃「この布を、どこかで見せてもらった覚えがあったものですから」
志雄「キャンセルは?」
俺が尋ねると、春日さんは大きく首を横に振った。
結乃「連絡してみたんですけど、今さらキャンセルはできない、の一点張りで・・・」
クロエ「交渉は続けてみるけど、発注してから時間も経ってしまっているし、向こうもごねるでしょうね」
クロエ「必要な物には違いないから、引き取ってしまってもいいのだけれど・・・。ただ、これだけじゃなくてね」
志雄「まさか、同じようなミスがいくつも?」


クロエ「何をどれだけ、どこに発注してあるのか、まず確認しましょう」


ちょうどその場に来たメンバーの手を借りて、資料を掻き集めたり、リスト化されていた発注先の店舗へ電話をかけまくって確認した結果・・・。

まとまった商品を発注する場合は、見積書等の金額明細や合計額を示した書類(以下、「金額書類」)を貰うのが普通である。 契約には、契約内容の合意が必須であり、そのためには契約額を確定させる必要がある。 だから、業者が金額書類を出さないことは有り得ない。 とくに、学校関係からの注文ならば金額書類を忘れることは有り得ない。 また、実行委員長ともあろう者が金額書類をもらい忘れるのも考えにくい。

もし、金額書類に間違いがあるなら、法律上は、そこに書かれた金額で契約するか、民法第95条の錯誤規定に基づいた契約破棄か、双方の合意に基づく契約変更(又は破棄)しか選択肢はない。 よって、新実行委員長が契約変更に合意しなければ、問題の布を単価1200円で購入する必要はない。 だから、契約破棄が出来ないのであれば、金額書類にミスがないか、あるいは、金額書類が見当たらないことになる。 金額書類があるなら、単価の照合に友達からの情報を利用するのはおかしい。 以上のことから、金額書類が見当たらないとしか考えようがないが、前述のとおり、業者が金額書類を出さなかったとは考え難い。

もし、「同じようなミスがいくつも」と言うほど、多数の発注の金額書類を紛失しているのであれば、満足に書類整理も出来ていないことになる。 それ以前に、単価のミス程度ならともかく、合計額を金額書類と照合しないようでは、書類整理能力はゼロであろう。 それでは、前任者の残した「資料」「リスト」は全く信用できず、「何をどれだけ、どこに発注してあるのか」を調べることは不可能であろう。

シナリオの都合で予算不足という状況を作ろうとするのは分かるが、もう少し、丁寧に作れないものだろうか。 専門知識を要する部分は仕方がないとしても、一般常識の範囲の部分はしっかりと作り込んでもらいたい。

個別ルート

りりす

メモリーズオフの悪い所だけが目につくシナリオ。 サブ・ヒロインのシナリオが割と良い出来なだけに、メイン・ヒロインのシナリオの不出来は非常に残念と言うべきだろう。

主人公のヘタレっぷりは、歴代主人公と何ら変わりない。 見るべきことから目を逸らし、やるべきことを先延ばしする。 察しの悪さ、気遣いの無さ、判断力の無さ、決断力の無さ、どれを取っても、塚本志雄は歴代主人公と張り合える立派なヘタレである。

ヒロイン視点は、新規に判明することが殆どないので、敢えて挿入した意味がない。 本編では分からなかったヒロインの心理を描くからこそ挿入する意味があるのであって、分かりきったことを描くだけならテキスト分量を水増ししているだけに過ぎない。 強いて言えば、佐賀亨の漢(と書いて「おとこ」と読む)っぷりが、新たに判明するくらいか。 惚れた女と親友の為に一肌脱ぎつつも、決して、甘やかさず、それでいて、フォローも欠かさない。 塚本志雄の駄目っぷりと比較すると、佐賀亨は神様のようである。

遠峯りりすが塚本志雄を遠ざける動機も不可解である。 罪の意識から塚本志雄と恋人になれないと思うなら、どうして、友達付き合いをしているのか。 長年、平然と友達付き合いをしておきながら、今更、罪の意識がどうこうと言うのでは説得力に欠ける。 そこまでの罪の意識を本当に感じているなら、塚本志雄の元に戻って来ない、あるいは、戻ってきても友達関係を築かないのではないだろうか。 塚本志雄を不幸にしたから自分は幸せになってはいけないと思うなら、友達付き合いで得られる幸福感も手に入れてはいけないはずだ。 友達は良くて恋人は駄目という基準は意味不明である。

事故当時の遠峯りりすは小学生3年生である。 その頃なら、思春期直前くらいであり、平均的な子供であれば、友達と恋人の意味の差は大きくなかろう。 だから、恋人関係が許されないなら、親しい友達関係も許されるはずがない。 ということは、何年も前に心の中で折り合いがついていなければ、親しい友達付き合いさえしていないはずである。 折り合いがついているのならば、今更、過去の事を蒸し返すのは何故か。

自らの罪を強く意識させれるような何らかの事件に遭遇したなら、今になっての蒸し返しもあり得なくはない。 もし、そうであるなら、ヒロインの心に重大な変化をもたらしたエピソードなのだから、当然、物語中で語られて然るべきだろう。 以上のことは、プロのシナリオ・ライターなら分かっているはずである。 分かっていて書かなかったなら、そのようなエピソードは存在しないということであり、何年も前のことを蒸し返すことの説明がつかない。

塚本志雄を幸せにしないといけないと言いながら、最愛の人から意味不明の拒絶を受け続ける苦痛を平然と味合わせる遠峯りりすの馬鹿さ加減にも呆れる。 塚本志雄を幸せにすることと、自分に罰を与えることと、一体、どちらが優先事項なのだろうか。 罪を問われる理由が塚本志雄を不幸にしたことであるなら、塚本志雄を幸せにする方が優先事項であることは言うまでない。 本当に塚本志雄のことを大事に思うなら答えは1つしかない。 それでも、どうしても自分が許せないと思うなら別の形で罰を受ければいい。 塚本志雄を不幸にせず、かつ、妥当な罰を受ける方法を考えればいいだけのことである。 遠峯りりすは、一体、何をグダグダ言ってるのだろうか。

トライアングル・ルートの遠峯りりすの仮病であるが、早い段階の台詞が如何にも仮病臭さを漂わせている。 また、箱崎智紗が一発で仮病と見抜いたこと、仮病発覚時にも知ってて知らない振りをしたように書かれていることからも、故意に騙された振りをしたという設定のようである。 しかし、この仮病に付き合わなければならない明確な理由がなく、シナリオを引き延ばすための時間稼ぎのエピソードにしかなっていない。 塚本志雄がやるべきことをさっさとやっていたら、このような仮病にいつまでも付き合う必要はないはずである。

塚本志雄にしても、遠峯りりすにしても、初めから1つしか答えが無いことが分かりきっているのに、延々と意味のない堂々巡りを繰り返す様子は、ヘタレ成分を大量に投入して無理矢理引き延ばした予定調和と言うべきだろうか。 予定調和は大いに結構だが、その過程は楽しめるものであるべきだろう。主人公とヒロインのダブル・ヘタレっぷりを延々と見せつけられるのは苦痛でしかない。 それでも、コメディ・タッチなら笑えて楽しいのだけど、シリアス展開のダブル・ヘタレではちっとも笑えない。

これまでのメモリーズオフでは、状況判断能力の欠けたヒロインは1人としていなかった。 もちろん、間違った状況判断をするヒロインは多数居たが、それは、何らかの止むを得ない事情による判断ミスであって、遠峯りりすのような、1つしかない答えを意味もなく拒否し続けるようなヘタレ・ヒロインは居なかった。 ヒロインの言動に合理的説明がついていたからこそ、主人公がどんなにヘタレでも見るべき価値のあるシナリオとなっていたのである。 しかし、ヒロインが主人公と同レベルの無意味な行動を繰り返すヘタレになるのでは、シナリオに見るべき価値が何処にあるのだろうか。

智紗

初期設定(「友達以上恋人未満」宣言)を除けば、良くも悪くもメモリーズオフの標準的なシナリオだろう。 そして、このシナリオには必須とは言えない変な初期設定が悔やまれる。 初期設定さえまともなら、標準的なメモリーズオフ・クオリティと言えたのに。

塚本志雄が恋愛感情を自覚したあたりからのウジウジ感は、いつものメモリーズオフのとおり。 恋愛感情を自覚したなら、その場で告白すればいい。相手の気持ちも分かっているのに、何故、行動を先延ばしにするのか。 分かりきったことをすぐやらないのは、かなりイライラする。

箱崎智紗が塚本志雄を拒絶する事情は良く出来ているが、答え合わせを引っ張り過ぎ。 第三者であるプレイヤーにすぐ分かることなのに、当事者である塚本志雄や遠峯りりすがいつまで経っても気づかないのは不自然。 引っ張って、ようやく、箱崎智紗が真相を告げようとしたら、ヒロイン視点に切り替わって物語の最初から・・・という構成には、何処まで引っ張るつもりやとツッコミを入れたくなるだろう。 しかも、ヒロイン視点は、やはり、新規に判明することが殆どないので、敢えて挿入した意味がない。

箱崎智紗が塚本志雄を避ける理由は良く分かる。 塚本志雄の許しを得ただけでは不十分だろう。 遠峯りりすが、執拗なまでに、塚本志雄と箱崎智紗をくっつけようとした理由が、りりすルートのように、罪の意識によるものであるならば、 箱崎智紗は、それ以上に、遠峯りりすに対して引け目を感じる。 何故なら、遠峯りりすが罪の意識を持つ事故については、箱崎智紗こそ「真犯人」であり、遠峯りりすは冤罪ということになるからだ。 遠峯りりすが身を引いた理由を知っているなら、箱崎智紗は、遠峯りりすに遠慮して、塚本志雄と付き合うことができない。 そして、塚本志雄と遠峯りりすが交際するかどうかは、当事者の問題であるので、箱崎智紗には口を挟むことができない。 身を引くという遠峯りりすの判断に対して、箱崎智紗には為す術がないのである。 冤罪で身を引かれては、「真犯人」である箱崎智紗は、増々、付き合うわけにはいかない。 そういうお人好しなキャラ設定なのである。 だから、ここで箱崎智紗が答えを自力で導き出せなくなるのは当然と言える。

しかし、塚本志雄がウジウジするのは意味不明だ。 もし、母親を殺したことが許せないと思うなら、箱崎智紗とは付き合えまい。 しかし、箱崎智紗には非がないことととして許容するなら、 一体、何を悩む必要があるのだろう。 稲穂信のアドバイスがあまりにも当たり前過ぎて、 それを理解できない塚本志雄はどうしようもないアホではないか。

結乃

修羅場が無く、2人で協力して困難を克服する過程を描くという、新しい試みは良い。 また、今までのメモリーズオフでは考えられないくらい主人公の状況判断能力が向上している点も高く評価できる。

しかし、御都合主義と軽薄さが少々もったいない。 意図して探したわけでもないのに唐突に秋津神奈と連絡が取れたのは偶然にしては出来過ぎ。 とはいえ、マイナーな話題であれば扱うサイトも少なく、かつ、その話題を扱うサイトに秋津神奈が常駐しているということであれば、同じサイトの掲示板で出会う確率は、奇跡と呼ぶほどあり得ない偶然ではない。 ただ、その場合には、秋津神奈がどんな想いで常駐していたのか等を掘り下げて描写して然るべきだろう。

また、全校生徒の前で告白しなければならない必然性に乏しく、メモリーズオフらしくないほどノリが軽い。

でも、俺からの告白は・・・今日の結乃ちゃんの劇を見守った人全ての前でなければいけなかった。
今ここでしか結乃ちゃんに思いを伝えられない人がいる。
その人にも最後の勇気を振り絞って欲しかったから。

「今ここでしか結乃ちゃんに思いを伝えられない人」とは、秋津神奈のことだろう。だとすると、塚本志雄は、秋津神奈を引きずり出す為に、全校生徒前の告白をしたことになる。しかし、それは、あまりに非現実的な行動だろう。

示し合わせたわけではない。でも、結乃ちゃんが大事だからこそ・・・神奈ちゃんも勇気を振り絞って俺たちの前に姿を現してくれた。

俺も勇気を振り絞って凄いことをやって見せるから、貴方も勇気を振り絞ってくれ・・・といった仕込みが事前にあり、かつ、秋津神奈が春日結乃に逢うことを躊躇していると知っているという前提なら、全校生徒前の告白は秋津神奈の背中を押す効果があるかも知れない。 しかし、示し合わせたわけではないなら、どうして、告白によって、秋津神奈が姿を現すと分かるのか。 このような行動は、事前に意図を伝えるからこそ、その真意が相手に伝わるのであって、予告なき突発的行動では、真意が伝わる保証はない。 いや、どちらかと言えば、余程の深読みをしなければ、真意を汲み取ることは難しいだろう。 そして、常識で考えて、良く知った人の不可解な行動の意図を深読みすることはあっても、詳しく知らない他人の行動を深読みしたりはしない。 だからこそ、「示し合わせたわけではない」というのはおかしいのである。

同性の友達である秋津神奈には、塚本志雄の告白に張り合わなければならない理由は何もない。 秋津神奈がレズ娘だったという裏設定があるなら張り合うかも知れないが、それでは、シナリオの意味が変わってしまう。 常識で考えれば、勇気を振り絞れずに躊躇しているなら、恥ずかしいことをすれば、返って、姿を現し難くなるだろう。 それでは、全校生徒前の告白は逆効果となる可能性が高い。 また、表彰の場を逃しても、その後の舞台裏等で、逢いに来てくれる可能性もないわけではない。 事前にメールのやり取りが出来ていれば、必要なことは事前に伝えられているはずである。 それで秋津神奈の心を動かすことができないならば、真意の伝わらない意味不明な行動では、到底、心を動かすことなどできないだろう。 もし、事前に心を動かすことができているなら、余計なことをしなくても、逢いに来てくれるはずである。 以上のように、全校生徒前の告白は、効果が疑わしいだけでなく、逆効果の可能性もある。 そして、後があるだけに、逆効果のリスクを考えれば、一発大逆転を狙うのは妥当な選択とは言えない。 このシーンは、塚本志雄が独り善がりな思い込みで突っ走って、それが、結果的に上手く行った・・・ということでしかない。 それでは、これまでの展開と比べてあまりに陳腐すぎる。 ただし、やるべきことを先延ばしにして事態が悪化する・・・という展開よりは遥かにマシである。

結乃「実は・・・あの台本、クラスのみんなにはわたしじゃなくて、わたしの友達が書いたことにしてあるんです」

というように、春日結乃がクラスの演劇の脚本を書いていることは内緒だったはずである。

肝心の結乃ちゃんは、今日はリハーサルを休んで脚本を仕上げることに専念しているとのことで、その場にはいなかった。
女子生徒「でも、大丈夫です。結乃なら必ず最高の脚本を仕上げてくれますから」
女子生徒「わたし達も結末が楽しみで仕方がないんですよ」
それでも、クラスメイトの結乃ちゃんへの信頼は揺るぎのないものだった。

何時の間に、クラスメイト公認になったのだろうか。 もし、何らかの理由で春日結乃の気が変わって公表するに気になったのなら、それは春日結乃の精神的変化を示す重要なイベントとなるはずなので、ゲーム中でキッチリと描写すべきだろう。

あと、重箱の隅だけど、

家事をする機会も多く、何かをしながら聴けて寂しさを紛らわせる。
そんな鉱石ラジオは俺にとってかけがえのない宝物になっていった。

スピーカーを鳴らせず、指向性が大きく本体も大きな鉱石ラジオでは、家事をしながら聴くのは無理かと。

ついでに、さらに重箱の隅を突くと、AM鉱石ラジオをFM鉱石ラジオに改造することは不可能である。 確かに、FM鉱石ラジオは製作可能である。 しかし、FM鉱石ラジオの構造はAM鉱石ラジオと全く違い、再利用できるパーツが殆どないため、改造でどうにかなる物ではない。 AM鉱石ラジオで最も大きく、かつ、重要パーツとなるアンテナ兼コイルが、波長の違いにより再利用できないことが大きい。 まあ、これは専門知識がないと分からないことなので、どうでもいいことだけど。

尚、これらの短所は、シナリオ全体のうちのごく一部の描写に過ぎず、奇跡と呼べない程度の軽い御都合主義と主人公が先走ってやっちゃった感が生じているくらいなので、量的にも質的にも程度としては大したことはない。 一方で、長所の方はシナリオ全体に広がっており、品質も極めて高い。よって、短所を差し引いても、長所による大幅加点はほぼ揺るぎないと言える。

結乃「お互い様じゃあ、ダメなんです」
結乃「悪いところがあるなら全部自分のせいだと思うくらいじゃないと、素直に謝れないじゃないですか」
結乃「本当にお互い様なら、相手もそう思ってくれれば・・・心から謝りあえる。わたしはそう思っています」

これは明言。

クロエ

修羅場が無く、2人で協力して困難を克服する過程を描くという、新しい試みは良い。 また、今までのメモリーズオフでは考えられないくらい主人公の状況判断能力が向上している点も高く評価できる。

しかし、本来、嘉神川クロエの手で解決すべき問題であるのに、主人公が無断で横取りして勝手に解決することがあるのは、やり過ぎだろう。 また、父親が仕事人間になった理由が明確にされておらず、嘉神川クロエが抱える心の根本の問題と、それに対してどう折り合いを付けるべきなのかが見えて来ない。 このことについては続編のNRで明かされるのだが、それにしてもある程度の答え合わせは必要だったのではないか。

尚、これらの短所は、シナリオ全体のうちのごく一部の描写に過ぎないが、シナリオの核になる部分なので、量的には大したことがないが、質的には大きいと言える。一方で、長所の方はシナリオ全体に広がっており、品質も極めて高い。よって、長所による加点の方が短所による減点に勝っている。

黎音

従来のメモリーズオフの多くのシナリオでは、ヒロインは、最初から、もしくは、早い段階で主人公に惚れている。 しかし、このシナリオでは、歴代1〜2位を争うくらい、ヒロインの惚れが遅い。惚れの遅さでは4thの隠しヒロイン力丸紗代里とドッコイドッコイだろうか。 そのため、修羅場に相当するシーンが淡々と進む。

課題&解決法が恐ろしいまでに直球勝負なのも、今までのメモリーズオフにはないパターンだろう。 鈴代黎音の本心は非常に読みやすい。 たとえば、告白を断る理由は、居酒屋で語られた話と逆行しているので、すぐに嘘だと分かってしまう。 そして、鈴代黎音が未練を残す人物がどのような人かもおおよその見当がつくので、それを元に、告白を本当に断った理由も簡単に読めてしまう。 そうした未練を乗り越えて告白をOKする過程は、塚本志雄の努力らしい努力が殆どない。 ただ、一方的に告白だけして、鈴代黎音が過去を振り切るのを待つだけである。 確かに、背中を押して相手の決断待ちとするのは、人事尽くして天命を待つ・・・であり、あの状況では適切な判断と言える。 しかし、その状況となるシナリオをもう少し波瀾万丈にできないものだろうか。 このままでも、決して、悪くはないのだが、少々、物足りなさが残る。 鈴代黎音の抱える悩みを塚本志雄自身が解き明かし、かつ、悩みの元凶の解消に大きく貢献する・・・というシナリオを期待したい。

細かいツッコミをすると、何時の間にか、箱崎智紗が実行委員になっているのに、塚本志雄は何も疑問を持たないのが不自然。 箱崎智紗に実行委員入りの是非を聞かれた時に「やめた方がいいよ」と答えていると、他のルートでは、共通ルート進行中に箱崎智紗が実行委員になった報告をしに来る。 しかし、黎音ルートでは共通ルートの後半が削除されているので、「やめた方がいいよ」と答えると、箱崎智紗が実行委員にならないうちに黎音ルートに分岐する。 本来なら、そのケースを考慮し、黎音ルートで改めて、フラグ判定に基づいた報告シーンを追加しないといけないのだが、それを怠ったために違和感が生じている。

稲穂信を弄くって遊びたい方は真っ先にどうぞ。

その他

稲穂信

1stでは主人公のクラスメイト、2ndでは主人公のアパートの同居人、3rdでは主人公の親友、4thではお節介焼き、5thではメイン・ヒロインのスパイという立場を歴任してきた稲穂信であるが、本作では、オブザーバー的アドバイザーに徹している。 要所を締めるというか、重要なシーンでの背中押しは健在であるが、全体的に、一歩引いた立場に徹している。 代わりに、佐賀亨が、従来の稲穂信の役割を果たしている。 佐賀亨は、従来の同級生の親友には珍しく、あらゆる局面において、主人公のために苦言を呈することが出来る。 これは、稲穂信でさえ、同級生キャラの時には出来ていなかったことである。

Last modified:2013/09/10 03:00:08
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References:

*1 経験者は語る(笑)

*2 塚本志雄は箱崎智紗の告白のために公園に行った