ユア・メモリーズオフ〜Girl's Style〜レビュー
シナリオ
結論から言えば、このゲームはメモリーズオフの名前を冠しているが、メモリーズオフではない。 出来の良し悪しは別として、メモリーズオフらしさが殆どない。
メモリーズオフでは、攻略対象、主人公共に、心に重大な問題を抱えている。 それが直接的に恋愛の障害になる、あるいは、相手の生命に関わってくるような見逃せない重大な問題となり、それを詳しく知りたいとプレイヤーに思わせるのである。 そうしたシナリオ展開によって、プレイヤーを登場キャラクターの心の奥深くへと誘うのである。 表面だけを見ても他人は理解できない、深く知ることが重要だとメモリーズオフのシナリオは示しているのである。 しかし、ユアのシナリオは、そうしたメモリーズオフの特性を持ち合わせてはいない。
羽根秀巳、本条理人、川本拓の三人は、メモリーズオフ攻略キャラにしては普通すぎる。 本条理人と川本拓は、若干の性格的問題を抱えてはいるものの、いずれも致命的な心の問題は抱えていない。 本条理人は、本当の意味で相手を思い遣ることができるかどうかは分からないが、基本的には人間ができている。 川本拓は、年相応に少々KYな面を持つが、素直で聞き分けが良い。 羽根秀巳に至っては、全く問題が見られず、むしろ、人間を良く分かっていて、他人の心の問題に干渉し得るだけの余裕がある。 この三人では、どう頑張ってもメモリーズオフ的なシナリオは構築できない。
くーたは、常識離れした境遇を抱えているが、心の問題は自己解決可能なレベルに留まっている。 これまた、どう頑張ってもメモリーズオフ的なシナリオは構築できない。
佐々俊一の心の問題は、プレイヤーに知りたいと思わせる動機が乏しい。 彼の心の問題は、主人公との恋愛の障害にはならない。 というか、むしろ、主人公との恋愛によって、心の救済が期待できる。 彼の心の問題は、生命に危険等が及ぶわけでもなく、本人が話そうとしない限り、無理に聞き出す必要がない。 唯一、有沢りかののアタックを拒否できないことが問題であるが、それは、主人公が俊一をしっかりとつなぎ止めておけば容易に解決できる。 そのため、メモリーズオフ的なシナリオの構築は難しい。
市井清孝の心の問題は、主人公との恋愛の障害になり得るが、知るべき中身が明らかにされていない。 彼の心の問題がどのようにして形成されたのか、そして、どうすれば解決できるのかが、全く示されていない。 そして、彼の心の問題は、主人公に多少の疑念を生じさせているだけで、重大な恋愛の障害等にまでは発展していない。 そのため、メモリーズオフ的なシナリオの構築には至っていない。 何よりも困ったことに、彼の心の問題がグッドエンドにおいて解決されたかどうか明示されていない。 彼の言動が心からの反応なのか、それとも表面的に取り繕った物なのか、描写からは判断できない。
俊一サイドも今ひとつである。 メモリーズオフ#5の場合、ヒロインの一人である仙堂麻尋の言動には不可解な部分が多々あり、逆視点で始めて真相が解明されるために、リバースカットの導入はプレイヤーの理解を深める効果があった。 しかし、心の奥底にある物はともかく、海サイドでの佐々俊一の表面的な行動に不可解さが少なく、海サイド内の描写で殆ど理解できてしまう。 多少珍しいシーンが見れたくらいで、逆視点を用意してまで表現する必要性に乏しく、プレイ時間を無駄に水増しする印象が強い。 どうせなら、佐々俊一の生い立ちを詳しく見せるべきだろう。 生い立ちが全くと言って良いほど示されないのでは、彼の心の奥底にある物も理解できない。
以上、まとめると、メモリーズオフと舞台が共通で、過去キャラが出ているだけで、メモリーズオフとは全く別の作品と言える。 舞台とキャラも、メモリーズオフから流用する必要性は乏しく、新規の舞台、新規のキャラで置き換え可能だろう。 女性向けとして販売するなら、メモリーズオフのネームバリューも期待できないだろうし、何のためにメモリーズオフの名を冠したのか疑問に思う。 メモリーズオフとは全く別の女性向けゲームとして出した方が良かったのではないだろうか。
評価点としては、従来のメモリーズオフよりも主人公のヘタレ度が格段にマシになっていること。 多少のヘタレさはあるが、基本的には前向きであり、一時的に落ち込んでも復活が早い。 また、ピアノや姉に対して及び腰なのは、それ相応の理由があるから納得できる。 あと、俊一サイドの「どうせイタいなら、好きなことやってイタいほうがいい」は名言かと。
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