トリックの条件(旧)
以下は、トリックの条件の改定前の文章です。
定義
基本方針
まず、騙す手段について分類する。
- 嘘
- 登場人物が使う嘘
- 作者が読者に使う嘘
- 偏った情報(重要な情報を省略したり、些細な情報を誇張したり)
- 登場人物が情報を偏らせる
- 作者が情報を偏らせる
- 心理的トラップ
これを元に基本方針を決める。
- 嘘については、フェアかどうかを検証するため、嘘をつく主体者を区別する必要がある。
- 偏った情報については、行為の主体者に限らずフェアであると考えられるので、区別する必要がない。
- 物語の中に埋め込まれてる絶対的情報量(個人差無し)と、読者にとって採用できる情報量(個人差有り)を区別するため、「総数(絶対的情報量)」「効果(個人的情報量)」「係数(=効果÷総数)」という概念を導入する。
用語
基本方針に基づいて、次のように用語を定義する。
- 誤導効果
- 手段を問わずに読者を誤った認識へと誘導する効果。
- 詭計効果
- 登場人物の言動等であることが明示されている等、100%信頼に足るとは限らないことが明らかな部分で間違った情報を提示することで、読者を誤った認識へと誘導する効果。
- 詐欺効果
- 物語世界を読者に伝える手段等、読者が無条件に信じなければならない部分で間違った情報を提示することで、読者を誤った認識へと誘導する効果。
- 偏向効果
- 間違いではないが、重要な情報を省略したり、些細な情報を誇張したり、偏った情報を提供することで、読者を誤った認識へと誘導する効果。
- 心理効果
- 心理的トラップを利用して読者を誤った認識へと誘導する効果。
- 間違った情報や偏った情報を直接信じることは心理的トラップに含めない(二重計上になるから)。
- 例えば、その場にいない人の名前を呼ぶ等の心理トリックは、一種の偏った情報(名前を呼ばれた人物がその場にいないことを提示していない)なので、二重計上にならないよう、ここで言う心理的トラップからは除外する。
- ここでは、それ単体では信じない情報を信じさせたり、あるいは、信じ方をより強めたりする効果を別途付与する物を心理的トラップと呼ぶ。
- 例えば、読者の感じた違和感を解消するために十分に納得し得るだけの極めて自然な内容の誤った答えを与えたり(納得できる答えを見つけると謎の探求を止めてしまう心理)、読者自身が謎を解き明かしたと思わせるように仕向けながら誤った答えに誘導する(自分が見つけた答えは無条件で鵜呑みにし、それを否定する情報は無条件で排斥する心理)など。
- 尚、「作者が嘘をつくはずがない」等は、心理的トラップではなく、物語のお約束事である。
- 読解効果
- 読者を真相へと誘導する効果。
- 自発効果
- トリックに都合が良い思い込みを読者が勝手に行なうことによって、誤った認識に向かう効果。
- ここで扱うのは、作者の仕掛けるトリックであって、読者の引き起こした不注意性錯覚ではないので、一切考慮しない。
- 落とし穴に例えると、作者が掘った穴に対して、上手に隠されていたために読者が気付けずに落ちるのが「誤導効果」であり、隠されていない丸見えの穴に読者の不注意で落ちるのは「自発効果」である。
- 読者に不注意がなくても落ちる穴を掘る、もしくは、読者の不注意を引き出す仕掛けを講じるのがトリックであって、作者の制御下にない読者の個人的不注意に頼り切っているのではトリックとは呼べない。
- ○○総数
- ○○効果の最大値=作品内の全情報量。心理効果と自発効果には適用しない。
- ○○係数
- ○○効果÷○○総数=読者が採用できた情報の割合。心理効果と自発効果には適用しない。
- 標準誤導効果
- 詭計総数+標準心理効果+偏向総数+詐欺総数
- 標準心理効果
- 心理効果の標準的な値。
補足
- 誤導効果>読解効果ならトリックに騙され、読解効果>誤導効果ならトリックを見破る(値に対する定義)
- 詭計効果と詐欺効果と読解効果と偏向効果は、それぞれ総数と係数(0〜1)によって決まる。
- 詐欺係数は、対象情報が100%明示されている事項で、かつ、他の情報に頼らなければ看破できないので、ほぼ1となることが多い。
- 読解係数は、対象情報が100%明示されている事項ではないので、1より小さいことも少なくない。
- 詭計係数と偏向係数は、対象情報が100%明示されている事項ではあるが、それ単体で看破可能なので、1より小さいことも少なくない。
- 心理効果は、単純に情報量のパーセンテージでは決められない(僅かな情報で絶大な効果を示すこともあれば、膨大な情報で全く効果を示さないこともある。心理効果は自分自身を客観的に評価できる人*1には効き難い。)
トリックの条件
- 隠された真実(誰でも容易に誤導情報が真相を示していないことを見破れるもの。あるいは、誤導情報が一切ないもの。ただし、必ずしも、真相の内容まで分かる必要はない。)はトリックとは呼ばない
- 標準誤導効果>読解総数をトリックの成立の条件とする(個人差に左右されず、かつ、妥当な線を選んだ)
- 詐欺総数>読解総数となることで真相が分からなくすることは反則であり、フェア(看破可能なトリック)であるためには読解総数>詐欺総数でなければならない(フェアな叙述トリックをこのページの用語定義をベースに数学的に言い換え。詐欺係数=1とすると、この式を満足しないと理論的に看破不可能。)
結論として、フェアなトリックは、標準誤導効果>読解総数>詐欺総数でなければならない。
*1 リンクはもちろんネタ(賞味期限切れ)
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References:[トリックの条件]