Ever17レビュー
ネタばれ回避方針
このページは、未だプレイしていない人が、購入の参考に見ると思われるので、極力、ネタばれはしないように注意したい。でも、ネタばれしちゃったらごめんなさいで。
あと、以下はリメイク前の作品に対する評価であるので、リメイク後には当てはまらない可能性があります(リメイクでは大幅な文章の手直しがあるらしい)。
概要
トリック作品として紹介されることがありますが、トリックの成立条件を満たしていません。 その詳細はトリックの条件(ネタばれ有)で解説しています。 とはいえ、Ever17という作品に失望する必要は全くありません。 というのも、Ever17の最大の醍醐味は、トリックではなく、大きく広げた風呂敷の畳み方にあるからです。
プレイ時の心構え
たった一つの基本原則、それは、プレイ前はこのゲームをギャルゲーだと思うこと。 事実、このゲームは推理アドベンチャーではない。 前作Never7は考察要素もあるギャルゲーだったけど、Ever17も同じと思っていると間違いない。
決して、秘密を解いてやろうと思ってはいけません。 確かに、このゲームには秘密があります。 しかし、その秘密を事前に解こうとすると、このゲームは全く楽しくありません。 あるがままの展開に身を任せて、然るべき時に秘密が明らかにされてこそ、このゲームは面白くなります。 そのように計算されて作られているのです。
秘密を事前に解とうとしても、絶対に真相には辿り着けません。 それはトリックが見事だからではなく、内容の複雑さに比べて圧倒的に量が足りない情報からは真相を予測することが不可能だからです。 無限の可能性の中から、手掛かり無しにひとつに絞り込むのは原理的に不可能です。 しかも、プロの作家が考えるシナリオを素人が予測するのは極めて困難です。 無理に答えを探そうとすれば思考が迷走し、シナリオを楽しめなくなくなります。 余計な詮索は逆効果にしかなりません。
とはいえ、何にも考えなさすぎでも困ります。 伏線として用意された描写を見逃し過ぎると、何のことかサッパリ分からなくなります。 目を見開き、聞き耳を立て、情報は一つ残らず回収しつつ、あまり深いことは考えない・・・という姿勢がベストです。 とくに、以下の描写については良く観察しておきましょう。
- 各種記録等や会話中の日時表現
- 両視点の登場人物やLeMU崩壊状況等の差
- それぞれの視点で居る人居ない人
- 両視点の小町つぐみの態度の違い
- 両視点の田中優の性格等の違い(例:オカルト関係)
- 浸水状況の差
- 重要な会話内容
- 武視点序盤での茜ヶ崎空による次元に関する説明
- 少年視点序盤での小町つぐみによる敵対理由の説明
- 少年視点中盤での田中優による第三視点の説明
- 少年視点終盤での小町つぐみと茜ヶ崎空の脱出方法議論
あと、必ず、武視点を攻略してから少年視点を攻略してください。 でないと、一部のシナリオ展開の理解に支障が生じます。 一説には、オープニング・ムービーの登場順が標準攻略順序だとか言われています。 また、武視点を攻略するときは、必ず、最初から初めてください。 ショートカットを使うと超高確率(というか、100%?)でバッドエンドになります。 既読スキップ機能を利用すれば、最初から初めても大した時間はかからないはずです。
プラス評価点
風呂敷の畳み方
本作品の見所は次のとおり。
- 裏切り者は誰だ?
- 何の為にこんなことを?
Ever17の唯一にして最大の長所、それも他に類を見ないほどの素晴らしさは、辻褄を合わせるのが難しい設定において、主要部分の辻褄を見事に合わせたことです。 超科学設定に基づくトリッキーで複雑なシナリオでありながら、物語の辻褄がキッチリ合っています。 辻褄合わせの難しいケースであるはずなのに、大筋では何ら矛盾するところがありません。 そのバランス感覚の素晴らしさに感動することでしょう。 最終シナリオで答え合わせがあるわけですが、事前説明のない唐突な答えはひとつとしてありません。 全て、事前に複数の伏線として示されていることであり、「なるほど、そういうことか」とプレイヤーを納得させる内容です。
最終シナリオの中盤辺りから答え合わせが始まります。 一つ答えが示されると、一つ疑問が産まれる。 そして、その疑問に答えが示されると、また、新たな疑問が産まれるという繰り返しで、徐々に核心に迫って行きます。 そして、クライマックスで一気に爆発します。 この過程が非常に気持ちいい。 もちろん、それらの答えは、全て、前述の通り、事前に伏線が張られており、誰もが納得できる答えになっているはずです。 だからこそ、気持ちいい。
主人公達を納得させるだけの合理的な理由などあり得ないと事前に思わせながら、種明かしでその合理的理由をこれ見よがしに見せつけるのです。 そして、きちんと辻褄が合っているから、語られた真相には疑う余地は全くありません。 単に辻褄がピッタリ合うだけでなく、詳細に語られなかった部分を含めてその瞬間に全てを理解できる、それは、種明かしの感動が一瞬に大爆発する、そう表現するのが適当だろうと思えます。
これらの答えを事前に解き明かしてやろうと思ってはいけません。 情報が足りないのに無理に答えを探そうとすれば思考が迷走し、シナリオを楽しめなくなくなります。 あるがままに身を任せ、自然に明かされるときを待つ、それが、最もゲームを楽しめる道です。
設定に頼り切らない
12RIVENと比較すると、Ever17の長所が良く分かります。 Ever17も12RIVENも、どちらも、物語に超科学設定を導入しています。 しかし、そうした超科学設定の使われ方は180度違います。
- Ever17は、シンプルでありふれた超科学設定を上手に活用してシナリオを組み立てている
- 12RIVENは、複雑で風変わりな超科学設定に頼り切ってシナリオを組み立てている
Ever17で使われている超科学設定は使い古された設定であり、あまり手を加えずにそのまま利用しています。 そして、その設定を仄めかす伏線を事前に提示してあり、完全先付け設定としています。 そうした設定を踏まえて、登場人物の行動などの現実的部分の描写を工夫して、シナリオの辻褄を合わせています。 シナリオの都合に合わせた「御都合主義的」超科学設定に頼らずに、セオリー通りの組み立てでキッチリ辻褄を合わせているから、素直に凄いと感心できます。
一方で、12RIVENでは、シナリオの都合に合わせるために設定の彼方此方をアレンジしているため、超科学設定が複雑になり過ぎです。 かなり複雑であっても、現実の科学理論や常識的論理に沿った複雑さであれば、止むを得ない。 しかし、作者の妄想理論をそこまで大量に添加するのは、さすがに、作者特権の濫用でしょう。 そして、事前に設定内容を仄めかす伏線が一切なく、答え合わせの段階になって唐突に妄想理論が提示されます。 さらに、作者特権を濫用しておきながら、シナリオと設定の辻褄が完成していない。 それでは、何のための濫用なのか、本末転倒でしょう。 辻褄を合わせる気が無いのなら、妄想理論を排除して、もっとシンプルな設定にすれば良い。 無駄に複雑な設定を導入しておいて、その目的を達していないという中途半端なことをするから、酷評されるのです。
人物描写
Ever17は、単なる設定やエピソードだけの物語ではありません。 個性的な登場人物が生き生きと描かれています。 性格、境遇、それらと照らし合わせて、各キャラの言動、感情表現等は極めて合理的です。 彼(もしくは彼女)の立場において考えれば。それぞれの行動は極めて自然な行動です。 真相を隠すための一部の不自然な言動を除けば、エピソードの都合で不自然に踊らされているような印象は受けません。 彼(もしくは彼女)らは、自身の意思にも基づいて、極めて、自然な行動を取っており、プレイヤーとしても、感情移入や共感がしやすいでしょう。
大団円
以上のとおり極めて複雑なシナリオながら、最後はキッチリ大団円なので、終わり方が非常に気持ちいい。
ゼロ評価点
緊張感に欠ける?
世間では、最終シナリオは面白いが、途中が中だるみし過ぎと言われています。 一見、サバイバル・アドベンチャーと考えると、海底に閉じ込められて危険が迫っているにしては緊迫感や緊張感が欠けているように見えます。 しかし、登場人物の行動は台詞内で説明されたとおり、合理的理由がある行動(無理して故意に明るく振る舞ってる)です*1。 各自が自分に出来る範囲の役割をキッチリこなしており、それは状況を考えれば理に叶った行動です。 一般の来訪者には、限りなく人間に近い人工知能&メモリに蓄積された大量の情報&高度なコンピュータ処理能力に太刀打ちできるはずも無く、館内の問題は茜ヶ崎空に任せる以外にない状況です。 圧壊に次いで閉鎖空間で正気を失うことによる自滅も危険なことであり、ストレス解消に努めるのはその時点で助かるために出来る最大限の努力であると言えます。 事実、一部の人物はストレスで変になりかけています。 これらの行動を持って緊張感がないと言うのは、物語をちゃんと見ていないのではないでしょうか。 また、圧壊の時刻が刻一刻と迫っていることを示すサインは何度となく表現されており、危機が迫り来る様子は感じ取れるので、緊迫感は十分にあるでしょう。*2。
それでも、「中だるみが我慢ならない」という人も居るかもしれません。 それならば、ギャルゲーだと思いましょう。 気に入ったキャラを攻略するのがメインで、シナリオはオマケだと割り切ってください。 最終シナリオに行くまでは・・・。 とはいえ、優編以外はギャルゲーにあるまじき終わり方なのですが。 とくに、沙羅編が反則級。 あまり詳しく言うとネタばれになるので、この辺で。
メタフィクション?
Ever17がメタフィクションであるかどうかは諸説あります。 詳細はEver17考察(ネタばれ有)で解説しています。 Ever17をメタフィクション作品として見ると、メタフィクション設定に全く説得力がありません。 Ever17においてメタフィクションの根拠とされる描写は、全て、非メタフィクションとして説明可能です。 Ever17の描写は、全て、物語の登場人物が物語世界の中で行動したことを記述しているだけです。 Ever17では第四の壁が破られることはなく、物語世界がフィクションであることの自己言及も、物語世界の外の世界への言及も一切ありません。 主人公がプレイヤーキャラクターであることを根拠にメタフィクションとされているようですが、Ever17の物語の設定上、主人公とプレイヤーの間には明確な隔たり(主人公の重大な意思決定にプレイヤーの意思を反映できないことが多い、プレイヤーを呆れさせる主人公の行動が多すぎる等)があり、両者を同一の存在と見なすことは不可能です。 以上のとおり、メタフィクション的な説得力が著しく欠けているため、Ever17をメタフィクションと見なしても、プラス評価する余地は全くありません。 素晴らしいメタフィクションを期待するなら、他の作品を探した方が早いでしょう。
マイナス評価点
誇大広告
パッケージや説明書には次のように書いてあります。
徐々に失っていくもの:食料・水・酸素。
これを読むと、食料・水・酸素が不足する状況が予想されますが、実際は、全く不足しません。 食料は、竜田サンドだけならば、最後まで余るくらいあります。 水や酸素が不足するような描写もありません。 その他、概略説明を読むとパニック物のような印象を受けますが、起きたトラブルに対しては、比較的冷静に淡々と対応しており、極一部(武視点の開始部分等)を除いてパニック描写はありません。
真相の隠し方
Ever17は開始早々、システムがプレイヤーに大嘘を吐きます。 一方で、システムが嘘を吐いている=隠された真相があることを示すヒントは、開始早々から何度も提示されています。 そして、ヒントに対抗する手段として志村現象(主人公が不自然なまでに真相から目を背ける現象。読者的に「志村!後ろ!後ろ!」と言いたくなる。)が目に余ることはEver17の唯一にして最大の欠点でしょう。 普通に状況判断すれば誰でも気付くようなことについて、主人公は不自然なまでに無視し続けます。 ゲームの序盤から中盤にかけて、読者は、真相までは分からないとしても、何か隠された事実が多々あることに気付きます。 そして、真相追求のために確認しておかなければならない事項も整理できるでしょう。 しかし、主人公は、それら一切に気がつきません。その様子は、故意に真相を闇に葬り去っているかのように不自然です。 これは、読者をかなりイライラさせます。 真相が明らかにならないのは、読者がトリックの存在に気付かないからではなく、主人公が真相から目を背けるためです。 読者に謎の存在を悟られているのに、真相を明かす時期をズルズルと引き延ばすのは、シナリオの時間的水増し工作に過ぎません。 あっと驚くトリックを期待するのであれば、シリーズを超えたゲームで紹介するゲームをやった方が良いでしょう。
Keyword(s):[Ever17]
References:[メモリーズオフ] [Remember11レビュー] [12RIVENレビュー] [Ever17リメイク版Xbox 360で] [Ever17考察 プレイヤー] [シリーズを超えたゲーム]