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トリックの条件

実例の項目には各作品のネタバレがあります。 古い記述はトリックの条件(旧)に移動しました。

定義

物語におけるトリックとは、広義には、主人公や読者を騙す仕掛けのことを指す。 一概に「騙す仕掛け」と言っても、それは大きく2つに分かれる。

  • 騙し切るか、見破るか−作者が読者に真剣勝負を挑むもの
  • 意外性を演出する一発ネタ

一般に、「トリック」と呼ぶ場合は、前者のみを指すことが多い。 前者は、フェアな戦いをすることが暗黙のルールとなっているため、勝っても負けても、勝負事に似た爽快感が得られる。 まんまと騙されても、作者の騙す技術を楽しむことが出来る。

一方、後者は、必ずしも、フェアであることが要求されない。 「そう来たか」という意外性の面白さを演出するのが目的であり、アンフェアな騙し討ちも禁じられていない。 作者と読者が真剣勝負で戦うのではなく、読者が一方的に受け身の立場で楽しむ物語に向いている。 後者の方は、単なる演出であるため、「トリック」と呼ばないことが多い。

ここでは、前者を狭義の「トリック」とし、後者は「フェイント」と呼ぶこととする。

トリック(狭義、以下同じ)とは?

物語におけるトリックとは、作品中に仕掛けられた巧妙な罠により、読者を誤認へと誘導することである。

  • 読者を誤認させる罠を具体的描写に仕掛けなければならない(罠によらない偶然の誤認はトリックではない)
  • 作者特権を悪用した虚偽情報だけに100%頼って読者を欺いてはならない(作者による直接的な嘘はトリックではない)
  • 通常の注意力を下回るような読者の不注意を必須条件としてはならない(読者の不注意錯覚はトリックではない)

ヴァン・ダインの二十則ノックスの十戒も参照のこと。

トリックの主要構成要素は、そこに含まれる嘘ではなく、その嘘を信じさせる仕掛けの方である。 よって、信じさせる仕掛けのない嘘はトリックとは言えない。 作者にとって運良く、読者にとって運悪く、偶然引き起こされた誤認は、トリックではない。 罠によらない誤認は、読者が勝手に間違えただけであって、トリックとは言えない。 トリックである為には、読者を確実に誤認へと誘導する具体的仕掛けが必要である。 「誤認をするかも知れない」とする未必の故意は、偶然に依存しており、トリックとしての成立要件を満たさない。

システムに仕込まれた嘘

詳細は叙述トリックの条件を参照。

不注意錯覚

種が丸見えでは手品は成立しない。 通常の注意力で答えがすぐ分かるようでは、トリックが成立しているとは言い難い。 その場合に、真相を見抜けない読者がいても、それは、トリックが成立しているわけではなく、その読者が間抜けなだけである。 読者を巧妙な罠に誘導して騙すことをトリックと言うのであって、罠が罠として機能していないのに読者が勝手に誤認することはトリックとは言わない。 穴が外から丸見えで、かつ、「落とし穴注意」の立て札まで立っている状況でも、穴に落ちる人は居る。 それは、罠が巧妙だったのではなく、単に、その人が間抜けなだけである。

隠蔽手段

読者を騙し切るためには、トリックを見破られてはならない。 一方で、トリックがトリックと呼ばれる為には、十分なヒントが必要となる。 両者は、相矛盾する条件であり、両立することが難しい。 そこで、そのためのテクニックを紹介する。

木を森に隠す

街中に1本だけ木があれば目立ってしまうが、森の中に木があっても目立つことはない。 同様に、真相につながる情報を1つだけ示せば目立ってしまうが、無関係な怪しい情報を多数示せば真相につながる情報を隠蔽できる。 木を隠す為の森を用意する事で、読者に対して、何を疑うべきか分からなくすることができる。

心理トラップ

疑う理由をなくす

人は、納得できない問題に直面したとき、その謎を探求したくなる。 その一方で、納得できる答えがあると、簡単に謎の探求を止めてしまう。 謎を探求するかどうかの行動の基準と用意された答えの妥当性には相関性はない。 どんなに妥当な答えであっても、それを読者が納得できないなら、謎の探求をしたくなる。 どんなにデタラメな答えであっても、それを読者が納得できるなら、謎の探求をしたくならない。

そうした心理を利用すれば、読者が全く違和感を感じないほど十分に納得し得る極めて自然な、かつ、内容の誤った答えを提示することで、読者の探究心を封じることが可能となる。 そして、読者の探究心を封じれば、その謎の裏に隠された真相に近づかせないことが可能となる。

自力で到達したと誤認させる

人には、自分が見つけた答えは無条件で鵜呑みにし、それを否定する情報は無条件で排斥する心理がある。 それを利用して、気づかれないように読者を間違った答えに誘導し、読者自身が謎を解き明かしたと思わせるように仕向ければ、真相を隠蔽することが可能となる。

まず、故意に陰謀のようなものの存在、隠された謎のような存在を見せておく。 そうすることで、読者は陰謀や謎を解き明かしたくなる。 その後、さりげなくヒントを提示すれば、読者は確実に食いついて来る。 答えをそのものズバリ提示するのではなく、ヒントを小出しにすることが重要である。 そうすると、読者は得られたヒントを集めて、勝手に、真相を推理しようとする。 しかし、それらヒントは全て作者が計算づくで提示した情報であり、そこからは正しい答えに到達できないようになっている。 かくして、読者は、作者の罠にはまり、間違った答えを推理してしまうのである。 そして、間違った答えを自分が暴いた真相だと思い込むため、本当の真相を探求することは止めてしまう。 そればかりか、その後、正しい答えへのヒントが提示されても、そのヒントが自分が暴いた“真相”と矛盾するため、無意識のうちに本当の真相へとつながる情報を否定してしまう。

実例

シリーズ

Never7

この作品はトリックの対象外です。

Ever17

全体的な考察は叙述トリックの条件を参照。

真相への道

用意されたヒントから、次のような可能性が想定できます。

  • パラレルワールド(選択肢によって世界が分岐するのではなく、最初の選択肢を選ぶ前から違う世界)
  • 両視点の時間が違う
  • 両視点の場所が違う

後者の2つではいずれも登場人物の類似が説明し難いという問題が残るものの、これだけでは、何が正解かは特定できません。 これは、【開始早々に謎の存在が分かり、いくつかの可能性も想定できるが、何が真実か的を絞れない】という状況であり、ミステリに例えると【実際に使った方法は不明だが、犯行を可能にする方法はいくつかある】という状況です。 密室が成立していないのでは密室トリックにならない…というのと同じです。 このような状態が答え合わせの時まで続くので、トリックが成立しているとは言い難い。 金庫に隠してあるのは分かるが鍵がないから開けられないという状況ではトリックが成立していない。 トリックが成立するには、金庫に隠してあるとは思いもしなかったという状況を作り出す必要があります。

そのような推測は思いもつかなかったという人もいます。 しかし、それならば、読者が誤った認識が抜け出せないのは、ほぼ100%、作者特権を悪用した虚偽情報のおかげです。 だとすると、これはトリックではなく詐欺です。 実のところ、ヒントやそれが意味することを取りこぼしたために、誤った認識から抜けだせなかっただけではないかと考えられます。 つまり、誤った認識から抜けだせないのは、その読者個人の注意力が低すぎるためと考えられます。 落とし穴に例えると、読者が勝手によそ見をしていたために、隠されていない丸見えの穴に落ちたのでしょう。 その場合は、たとえ、穴を掘ったのが作者の仕業であったとしても、転落の原因はトリックではなく読者の不注意です。 穴を掘っただけではトリックは成立しません。 穴を隠すのがトリックであって、隠されずに丸見えのままではトリックとは呼べません。 隠されていない丸見えの穴では、作者の制御下にない読者の個人的不注意に頼り切っているのでトリックとは呼べません。

まとめると、Ever17のトリックが成立しないのは、作者特権を悪用した虚偽情報以外の読者の誤認を引き起こす罠がないからです。

ギャルゲー設定

尚、読者が誤認する余地があるとすれば、二つの視点の出来事の同一性ではなく、両者の差異の重要性でしょう。 ギャルゲーでは、攻略ヒロインが複数居るのが普通なので、それに合わせて、複数のルートが用意されています。 攻略対象のヒロインが違うのだから、各ルートで出来事に差があるのは当然のことであり、誰も違いについて深く考えません。 場合によっては、特定ルートの回想シーンが他のルートと辻褄が合わないこと(特定ルートにおける過去改変)も珍しくありません。 そのため、Ever17がギャルゲーだと思った人は、二つの視点の出来事の差異について、深く考えようとはしないでしょう。 しかし、Ever17では、その差異こそが物語の核心に迫る重要な伏線であり、その重要性を誤認させることで、真相から目を逸らさせることができます。 とはいえ、これは、【明確な答えが用意されていないかも知れない】という認識を植え付けるが関の山であり、二つの視点の出来事が同一であると認識させるには至りません。 何故なら、思考放棄するだけでは、何が真相か分からなくなるだけであって、特定の結論(二つの視点の出来事が同一)が正しいと断定することは出来ないからです。 一般的なギャルゲーにおいて、攻略ルートは、各ヒロイン毎に展開が違うので、それぞれ同一の出来事であるとは認識できません。 もちろん、明確な証拠があれば同一の出来事という結論を採用することも可能ですが、証拠が無ければ答えを棚上げするのが関の山です。 それは、Ever17においても同じであり、他のギャルゲーの例に漏れず、明確な証拠が無い以上、同一の出来事という結論を採用することは出来ません。 一般的なギャルゲーにおける【単一視点かつ登場人物が同じ】でも同一の出来事と結論づけられないのだから、Ever17のような【複数視点かつ登場人物が変わる】のでは尚更です。 というように、二つの視点の出来事が同一だという認識を植え付けることができないので、トリックは成立しません。 さらに言えば、そうした誤認は、「恋愛アドベンチャー」というジャンル表示によってもたらされるものであり、これは、読者が無条件に信じるべき情報です。 というより、パッケージに書かれた説明書きは、無条件に信じるべき情報の中でも、特に、鵜呑みにして然るべき情報であるため、そこで嘘をつくというのは、トリックとしては重大な反則でしょう。

フェイント

Ever17にはフェイントが用意されている。 両視点の登場人物がソックリであるので、読者は、当然、少年や倉成武の外見も似せて来るだろうと思う。 しかし、その予想を裏切って、両視点の少年は全く違う外見をしている。 倉成武の場合は、多少は似せているが、やはり、同一人物と見紛うほどは似ていない。

少年と倉成武だけ似ていない理由は、事件の真相と密接に関わりがある。 そして、事件の真相を知らずして、フェイント内容を予測するのは不可能である。 確かに、八神ココと松永沙羅も全くの別人ではあるが、これは、類推には全く使えない。 何故なら、八神ココと松永沙羅(既出の例外)は、名前も境遇も違う完全な別人であり、田中優/茜ヶ崎空/小町つぐみ(原則)とは明らかに違う例外だからである。 それに比べて、少年は境遇が良く一致しており、倉成武は同じ名前であり、事前に判明している範囲の情報だけを見れば、原則並に極めて類似した事例のように見える。 仮に、例外の可能性を考慮したとしても、既出の例外とは全く違う例外が生じること、それが主人公だけに都合良く当てはまること、等、事前情報から逸脱する必要がある。 だから、事前情報だけでは、少年と倉成武が例外側に属することを予想できない。 このように、事前に十分な情報がなく、フェアさを欠いているため、トリックには分類できない。

また、本来、主人公が得ているはずの情報を、読者に対して故意に遮断することもフェアさを欠いている。 主人公については、無意識のうちに不都合な情報を拒絶したと解釈することが出来るが、それは、読者の言動とは違う。 作者には登場人物の性格や行動原理を決める権限があるが、読者の性格や行動原理は読者の物である。 つまり、読者次第で事前に知ることが出来るはずだった重要事実を、作者特権を発動して無理矢理隠したのである。

隠していた事実を唐突に提示することで意外性を演出することには成功している。 しかし、それは演出であって、とてもトリックとは呼べない。

瑣細なトリック

さて、では、Ever17には全くトリックがないのかと言えば、そうではなく、些細な叙述トリックはあります。

(後日追記予定)

一見、「あの女」が指す人物は、小町つぐみのように見えます。 しかし、真相を知ってからリプレイすると分かるように、本当は、別の人物です。 このシーンは、登場人物に「あの女」と言わせているだけで、嘘の情報は一切ありません。 また、「あの女」という言い回しが極めて自然(感情的になって相手を卑下する目的での言い回しに見える)ため、対象者が不明確であることにも、何ら違和感を感じる余地がありません。 そのため、読者は自然に「あの女」の対象者を脳内補完してしまいます。 これは、お手本的な叙述トリックですが、残念ながら、シナリオの核心部分から掛け離れた些末なトリックで終わっています。

Remember11

叙述トリックの条件を参照。

12RIVEN

叙述トリックの条件を参照。

Last modified:2011/02/18 22:42:39
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