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12RIVEN考察

このページの考察は考察の基本原則に従っています。あと、物語の条件も必読。矛盾点は12RIVEN考察 矛盾点に、ウンチクは12RIVENウンチクに、ギャグは12RIVEN駄考察に、それぞれ移動しました。

自我の定義

最初に断っておくが、このゲーム中で自我と呼ばれている物は「自我」と表記する。「自我」は、エスと対比される意味でフロイトらが用いた精神分析用語と同義である。一般的に使われる自己の主体意識=自我意識としての意味の自我は、このゲームで言う所の「識域下」と「自我」の総称であって、ゲーム中の「自我」とは意味が違う。

ゲーム中で「自我」と呼ぶからには、それを自我意識として描いているのではないかと、普通は思う。しかし、必ずしも、そのような描写になっていない。「自我」=自我意識のような描かれ方をしている部分もある一方で、エクリプシーが必ずしも自我意識を失わない等、それに否定的な描写も多い。解説シーンでは肯定的に描かれることが多いのに対して、具体的な事実関係の描写では否定的に描かれていることが多い。つまり、ゲーム中の事実に反する説明が登場人物によって堂々と為されているのである。その詳細は、このページの考察を参照してもらいたい。だから、このゲームの考察をするにあたって、「自我」=自我意識を前提として考察すると、とんでもない誤解を生む恐れがある。もし、作者が、故意に、二通りの意味を使い分けているのだとすれば、描写手法としてアン・フェアだろう。作者が混同しているのだとしても、かなり迷惑なことだ。

マイナの説明どおりに人間の行動の99.9995%が「識域下」の働きによるならば、一般的意味の自我の99.9995%は「識域下」であって、「自我」は0.0005%しかないことになる。この通りならば、他人の「識域下」の中に埋もれた「自我」を識別するのは極めて困難であり、他人からは「識域下」の一部も「自我」と大差ないように見えるはずである。

その辺りを混同した「A世界に行ってるはずの○○に自我があるのは何故だ?」と言う意見が散見される。この場合、ゲーム中の意味の「自我」で論じなければならない所を、一般的意味の自我で論じているのが間違いである。「自我」がA世界に行っても、一般的意味の自我の99.9995%を占める「識域下」が残っているのだから、一般的意味の自我はあって当り前である。無い*1のは、ゲーム中の意味の「自我」である。

Ψの仕組み

以下の説明における「ミュウ」は、高江ミュウの格好をしているが、高江ミュウではない。 以下、本物の高江ミュウと区別するために「黄髪少女」と表記する。

ミュウ「Ψのメカニズムはね、ものすご〜く単純なの」
ミュウ「簡単に言うと『A世界で歴史を変えて、現世界に戻る』・・・たったそれだけの事」
鳴海「A世界?現世界?」
ミュウ「A世界っていうのは『識域下から大幅に遅れを取る事によって経験される自我の世界』の事で・・・」
ミュウ「現世界っていうのは『識域下そのものが経験する生の感覚世界の事』・・・なんだけど・・・」

明言されてはいないが、黄髪少女の説明では、「識域下」から大幅に遅れを取った「自我」の歩む歴史が現実である事を前提としている。 その証拠は後で述べることとする。 この後、ロープとトランプを使ってΨを説明するのだが、参考までに、この部分の科学考証の間違いを注釈欄で指摘しておく*2。 ただし、この科学考証の間違いそのものは物語を考察する上では論じる必要がない。 敢えて指摘するのは、間違いを理解した上でそれを許容することと、間違いを知らずに鵜呑みにすることに雲泥の差があるからである。 考察を進めるには何処が間違いかを正しく理解する能力が必要になる。

ミュウ「要するに、言い換えると『どっちの歩んできた歴史が、正史として確定するか』って事」

「歩んできた歴史」という言い回しに注目してもらいたい。 これは、後の「取った行動」と併せて、現世界もA世界も、どちらも現実であることを意味する言い回しである。 そもそも、どちらかが現実で他方が現実でないなら、どちらが正史として確定するかは言うまでもない。 現実の方が正史になるに決まっている。 二者択一の余地があるのは、双方の実現性をほぼ対等に見ているからに他ならない。

ミュウ「もし、識域下の取った行動が正史として確定するなら、自我には自由意思なんて存在しない事になっちゃうじゃん」

この「識域下の取った行動」と対比される物は、何であろうか。 明言されていないが、明らかに、「自我の取った行動」であろう。 とすると、この説明は、現世界もA世界も、どちらも現実であることを前提としている。 ここでは、A世界が現実である事を前提としていることについて、これ以上深く追求はしない。 しかし、12RIVEN考察 矛盾点で物語の矛盾点を説明するときに再度出てくるので良く憶えておいて欲しい。

尚、物語を考察する上では必要ない事ではあるが、ここでも、参考のため、この部分の科学考証の間違いを注釈欄で指摘しておく*3*4

ミュウ「たとえトランプを破こうと、大好きな人に告白しようと・・・」
ミュウ「識域下がそれをしなかったら、そっちの歴史の方が優先されちゃうのかな?」

注釈欄で補足ツッコミ*5*6をしておく。

ミュウ「私達は歴史を上書きすることができるの」
ミュウ「A世界でトランプを破ったら、現世界へ戻った時に、その敗れたトランプは実体化するんだ」
ミュウ「つまり、鳴海さんが歩んできた歴史のほうが、正史として確定するって事」
ミュウ「でも、現世界にいる人々の目には、トランプが引き裂かれた瞬間は映らない
ミュウ「鳴海さんが何もしていないのに『トランプが勝手に裂けた』という光景を、目の当たりにする事になるの」

上で述べたとおり科学考証は間違ってはいるが、物語を楽しむ上ではそれを気にする必要はない。 大事な事は、この物語の設定では、A世界の歴史を現世界に上書きできるということである。 科学的に正しかろうが間違っていようが、作者が明示的に提示し、かつ、その物語中で矛盾がないなら、それは、その物語中に限って絶対に正しい法則なのである。

ミュウ「識域下との距離が12分以上あいちゃうと・・・」
鳴海「あいちゃうと・・・」
ミュウ「ブチンッ!−ロープが切れて、二度と現実世界に戻れなくなっちゃうの」
ミュウ「これに関連して、自我がA世界に滞在していられる時間も、12分が限度って事に・・・」
ミュウ「なんでかって言うとね?」
ミュウ「ロープがピーンと張られたときに識域下がいる地点をXとすると・・・」
ミュウ「そのX地点に自我が差し掛かった瞬間、自我は強制的に現世界へと連れ戻されちゃうからなんだ」

この説明は非常に分かりにくい。 というのも、「自我」と「識域下」が乖離してA世界に突入するまでの過程、A世界に滞在する間のロープの状態等の説明がゴッソリ抜けているからである。 しかし、説明を逆の方向に辻褄の合うように辿っていくと、「自我」にとってA世界が始まるのは「ロープがピーンと張られたとき」であり、A世界滞在中はずっと「ロープがピーンと張られ」続けることが分かる。

「識域下」がX地点にいるとき、ロープがピーンと張られているのだから、「自我」はX地点よりロープ長の分だけ遅れている。「自我」がそこからX地点に到達するまでは、常識で考えて、ロープ長に相当する時間がかかる。 さて、ここで逆算すると、ロープ長最大=滞在時間最大という説明をしているのだから、A世界の滞在開始時期は「ロープがピーンと張られたとき」でなければならない。 それより前に滞在が始まっていると、ロープ長より滞在時間が長くなってしまう。 また、それより後に滞在が始まるとするならば、この説明が12分ルールと無関係になってしまう。 12分ルールの説明として話をしているのだから、12分ルールと無関係な話ではないはずだ。 だとすると、A世界の滞在開始時期は「ロープがピーンと張られたとき」以外にあり得ない。

まとめると、A世界に突入する前に、「自我」は、一度、急減速するのである。 そして、「ロープがピーンと張られたとき」に「識域下」と等速となり、そこからA世界滞在が始まるのである。 そして、「自我」がX地点に到達すると「自我は強制的に現世界へと連れ戻されちゃう」のである。

psi.png

例えば、Ψ開始時刻=11時59分、ロープ長=12分、乖離限界=30秒差*7、ロープがピーンと張られるまでに13分を要する*8場合、次のようになる。 正確には「自我」がA世界から現世界に移動する時間(24時間差の場合は1分)も考慮しないといけないが、ここでは無視する。 強調部分は黄髪少女とマイナによる説明を正確に反映している。

時刻現世界A世界
11時59分Ψ開始
11時59分32.5秒乖離限界突破→乖離=エクリプシー
12時00分「識域下」X地点到達→A世界開始
12時12分(X地点)「識域下」X地点到達「自我」X地点到達→A世界終了
12時24分「自我」X地点到達→「自我」復帰&A世界のX地点に基づいて歴史上書

以上で分かるとおり、原理上、Ψを使い始めるより前に戻って歴史を改ざんすることは出来ない。 意表を突いたフェイントには有効だが、失敗を取り戻す手段としては使えない。 えっ、過去に戻ったシーンがあるじゃないかって? 実はΨを使って過去に戻った事例は一例もないようである。 それは、後で個別に検証することとする。

以上は、ロープが切れない場合の説明であるが、ロープが切れる場合も、「自我」が現世界に戻れない以外は同じである。 えっ?それって変じゃない? ロープが切れたなら「自我」は「識域下」と等速にならないんじゃない? と思うかも知れないが、他の描写と照らし合わせると、そういう設定らしい。 作者がそう決めた以上は、この作品中では絶対のルールである。

机の端で落ちそうなグラス

現世界に上書きされるのは、12時12分の段階で確定した事実であるが、その12時12分の時のA世界の状態が12時24分の時の現世界の状態としてそのまま反映されるわけではない。 というのも、そのまま反映されるのであれば、A世界で割れなかったグラスは、現世界に戻った時にも割れていないはずだからだ。 それでは、マイナが言っていた机の端で落ちそうなグラスの話は、全く成立する余地がない。

また、数々の描写を見れば、明らかなように、現世界の12時12分から12時24分までの出来事は、A世界の12時12分の状態を反映していない。 12時24分にならないとA世界の状態は現世界に反映されない。 その詳細は「歴史改変」の項で後述する。

さらに、A世界では、12時12分から12時24分までの出来事を体験していない。 原理上、体験していない出来事を現世界に上書きすることはできない。

以上のことを総合して考えると、現世界に戻ったときの12時24分の状態は、現世界で起きたこととも、A世界で体験したこととも違う、いずれとも違う状態となるはずだ。 A世界で体験した12時12分の状態の12分後に相当する状態であることは確かであるけれど、それがどんな状態かは現世界に戻るまでは分からない。 だから、12時12分から12時24分までの間にグラスが割れる余地があれば、A世界を出る時に割れていなかったはずのグラスが、現世界に戻った時に割れているということが起こり得る。 グラスを守りたければ、12時12分から12時24分までの間にグラスが割れる可能性をほぼ完全に潰さなければならない。 言い替えると、グラスが割れる可能性があるうちは、現世界に戻ってはいけないのである。マイナが言いたかったのは、そういうことである。

歴史改変

Ψは歴史を変えない。因果律を破綻させてはいるが、歴史そのものは変えていない。 事実、結果を上書きした描写は多々あれど、過程を上書きした描写はひとつもない。 例えば、現世界で重体の青髪少女は、22日12時01分に怪我が治っているが、12時00分以前に重体だった事実がなくなったことを示す描写は一切ない。 逆に、瞬間移動や超回復等、歴史が変わらなかった描写は多々ある。 過程が上書きされる前提では、瞬間移動や超回復は実現できない*9。 黄髪少女の「現世界にいる人々の目には、トランプが引き裂かれた瞬間は映らない」という説明も過程が上書きされないから起こる現象である。 よって、因果律は見事に破綻しているが、歴史が変わったわけではないのだ。

もし、仮に、親殺しのパラドックスのような歴史が変わる世界観だとすると、共通ルートで重体の青髪少女に指輪があることが説明できない。 その世界観を採用すれば、この段階では、未だ、歴史を書き替える前の出来事であるはずである。 それならば、歴史が書き替わった結果であるはずの指輪が存在するはずがないのである。 指輪が歴史改変後の状態なのに、容態が歴史改変前の状態なのも描写の統一性に欠ける。 よって、作者の意図としては歴史が変わらない世界観なのだろう。

歴史が変わらない世界観であれば、現世界において「識域下」がX地点に到達する前は、Ψによる上書きは発生しないはずである。 何故なら、「識域下」がX地点に到達する前にΨによる上書きが発生すれば、歴史が変わってしまうことになるからだ。 というのも、X地点より前に上書きが生じると、現世界で重体の青髪少女が22日12時より前に回復してしまう。 実際の描写では22日12時までは重体だったはずであり、これでは歴史が変わってしまう。 よって、歴史が変わらない世界観において、上書き現象は、X地点より後に起きるはずである。 つまり、原理説明で挙げた例で言えば、12時12分のA世界の結果に応じて12時24分の現世界が書き換えられる。 だから、12時0分〜12時12分に起きた現世界の歴史は改ざんが可能だが、12時12分〜12時24分に起きた現世界の歴史は変えられない。 これはマイナが言っていた机の端で落ちそうなグラスの話と完全に一致している。

乖離限界

さて、「識域下」がX地点に到達する前の「自我」はどうなっているのだろう。 常識で考えた場合、分単位、時間単位の遅れが生じれば、「自我」は現世界にまともな反応を返すことができない。 よって、この間も、現世界ではエクリプシー症状が発現しているはずである。

これについては雪積真琴の事例が挙げられる。雪積真琴は現世界21日3時半頃に24時間ダイブを敢行した。 ということは、このケースの「X地点」は22日3時半以降であるはずである。 鳴海ルートの21日23時台に大手町から掛かってきた電話で、雪積真琴がエプリクティックシンドローム(その症状の患者をエクリプシーと言う)であるとの診断結果を伝えられている。 プレイヤーが直感的にエクリプシーと感じたのではなく、ゲーム世界の医師がそう診断したのだから、エクリプシー症状が発生していることに疑いの余地はない。 もちろん、大手町が嘘をついていたり、事実誤認している場合は別だが、ゲームの結末を見れば、この件に関する彼の嘘や誤認を疑う理由がないことは明らかだろう。 ということは、「識域下」がX地点に到達する前に雪積真琴はエクリプシー症状となっていることになる。 この事例が乖離限界について示された唯一の事例であるから、乖離限界についてはこの事例のみが根拠となる。

以上のとおり、常識的推測と唯一の描写が完全に一致しているので、「識域下」がX地点に到達する前であっても、一定以上、「自我」に遅れが生じればエクリプシー症状が発生すると考えられる。

オマケ

何度も述べているとおり、Ψの仕組みは完全な疑似科学理論である。 もちろん、Fictionだから、疑似科学理論は一定程度許容される。 とはいえ、疑似科学理論はなるべくない方が好ましい。 というのも、度を過ぎた疑似科学理論は、物語を荒唐無稽にしてしまうからである。 「ワープが可能」等の一言で済む程度の疑似科学理論であれば、とくに気にする必要はないが、かなり凝った疑似科学理論は、物語を荒唐無稽にする危険性が極めて高い。 とくに、科学をよく理解していない文系人間が考えた疑似科学理論は、極めて危険である。

しかし、それでも、かなり凝った疑似科学理論を導入しなければならない場合がある。

  • 主にハードSFにおいて、現実の理論に抜け穴を作るための理論
  • シナリオ上の伏線としての理論
  • 機能や現象の説明だけでは物語上のルール(物理法則等)が定義しきれない場合に、そのルールを定義するための理論

例えば、前者の例として、相対性理論の高速限界を突破するために、ワープ理論やワームホール理論が考案されている。 これらの理論は、相対性理論とは矛盾しないだけであって、現実に実現可能だと証明された理論ではない。 もっとも、これらの理論は有名な科学者が真っ当な科学雑誌に論文として掲載しているので、疑似科学理論と呼ぶよりはプロトサイエンスと呼んだ方が適切かも知れない。 とはいえ、実現可能だと証明されたわけでもなく、また、実現方法も明らかになっていないので、科学理論とは呼べない代物であることに変わりはない。 いずれにせよ、これらの理論は、恒星系の異なる異星人同士の交流等を描くSFでは、相対性理論の高速限界を突破するために欠かせない理論となる。

Remember11における量子テレポーテーションは、真っ当な科学現象であるが、導入された目的は中者に該当する。

12RIVENで導入された疑似科学理論は、後者の例である。 原理説明がされる前のΨは、単に不思議な現象でしかなく、それだけでは何が出来るのか明確でない。 そこに、原理説明が導入されて、初めて、Ψにどのような機能があるのかが明確になっている。 物語の条件に示すとおり、何でもあり設定は反則である。 だから、Ψで出来ることと出来ないことはハッキリと定義できなければならない。 とはいえ、真っ当な科学理論では、Ψを実現することはできない。 そこで、Ψに都合が良い凝った疑似科学理論を導入することで、Ψの機能を定義しているのである。 ところが、後述するように、その機能定義が物語中で起きている現象と全く一致していない。 物語中で起きたことを説明するには、導入された疑似科学理論とは別の疑似科学理論が必要となる。 それでは、荒唐無稽となるリスクを冒してまで、疑似科学理論を導入した意味がない。

青髪少女の上書き

現世界で重体の青髪少女について、新東京電波塔でのバトルの前に、A世界の服装および指輪が現世界に上書きされている。一方で、超回復は、22日12時1分になってからである。これらのA世界から現世界への上書きのタイミングの差は、上書き実行者のダイブ時間の差によって生じている。

  • 服装等は第三者(後述)のショート・ダイブによる上書き→約12分後に反映
  • 肉体は本人および雅堂錬丸のロング・ダイブによる上書き→約24時間後に反映
myu.png

まず、最初の状態では、青髪の少女は私服を着ている。現世界21日昼前に、ショート・ダイブでA世界の服装等が現世界に上書きされる。この後、現世界で銃撃を受けた青髪の少女は重体となる。そして、現世界22日の12時1分にはロング・ダイブによってA世界の状態が現世界に上書きされて、超回復を実現する。

錬丸とディビジョン

雅堂錬丸にとって、何時までが現世界で、何時からがA世界なのか。人が消え失せていることを確認した時は間違いなくA世界である。では、それまでの間はどうだろうか。その辺り、考察してみると面白いと思う。

戦闘メンバー

プロローグは、錬丸視点が5月20日のホテルグランティス、鳴海視点が5月21日の新首都圏電波塔。日付と場所が違うことに注意。

ホテルグランティス

  • 霧寺メイに拉致られてるのが高江ミュウ
  • 高江ミュウを助けようとするのが雅堂錬丸
  • 現れた刑事は雪積真琴
  • バトルでフルボッコにされたのは伊野瀬チサト

新首都圏電波塔

  • 霧寺メイに拉致られてるのが偽高江ミュウ(黄髪少女)
  • 霧寺メイから少し離れて立ってるのが伊野瀬オメガ
  • 現れた刑事は三嶋鳴海
  • バトルでフルボッコにされたのは偽伊野瀬チサト(青髪少女)←原理的に参戦不可能(詳細は12RIVEN考察 矛盾点

新聞と天気予報

喫茶店の単独探索シーンで見聞きした新聞や天気予報の日付は21日となっていた。 実際には20日のはずなのに、どうして21日になっていたのか。この理由は∫ルートで明らかになる。 ∫ルートへ行けるようになると次のテキストが追加される。

店内に視線をめぐらせる「」・・・。

一体この鬱陶しい雨はいつ上がるのだろう・・・?
気になったは、携帯を取りだし、天気予報にかけてみることにした。

とはいえ、それは窓の内側から見たせいだ。
実際には、この喫茶店の名前は「跡海(アトウミ)」=「ATOUMI」−。
その「ATOUMI」を、店内の方から見たために「O−TAIMU」と読めただけだった。

雅堂錬丸の一人称は「私」ではない。 A世界は常時晴れている。 雅堂錬丸は携帯電話を紛失したはずである。 これはおかしい。

さて、このシーンの時、三嶋鳴海は何処にいるのだろうか。 前後の鳴海視点で三嶋鳴海は場所を移動していない。 このシーンの直後の鳴海視点で窓の外を見てみると良い。 「IMU」と書いてあるではないか。 そう、新聞を読んだり、天気予報に掛けたのは、実は、三嶋鳴海だったのである。

よくよく考えてみれば、眼前にコーヒーがあったのもおかしい。 店員もいないのに、誰が入れたのだろうか。 探索時間が15分しかないのに、わざわざ、コーヒーメーカーや豆を探して自分で入れたりはしないはずである。 そう、これは雅堂錬丸ではなく三嶋鳴海の眼前にあるコーヒーなのである。

この後、マイナと高江ミュウと落ち合うシーンでは、お互いの情報を交換したことが書かれているが、具体的な情報の内容には触れていない。 つまり、プレイヤーは自分が見聞きした新聞や天気予報の情報を雅堂錬丸も共有していると思い込んでいるが、実は、それを明確に示した描写はないのである。 雅堂錬丸達がどのような情報を元に21日だと勘違いしたのかは明らかにされていない。

実に単純な「トリック」である。 三嶋鳴海の姿が見えた時に錬丸視点から鳴海視点に切り替わったとプレイヤーに思わせておいて、本当は、新聞や天気予報を選ぶ選択肢の前すなわちコーヒーのアップの時点で鳴海視点に切り替わっていたのである。 最初は、主語を隠し、画面に人物を映さないようにすることで誰の行動か分からないようにしているのである。 そして、このシーンの直前に、雅堂錬丸が喫茶店に入っているため、プレイヤーはその続きであると勝手に想像してしまう。 だから、新聞を読んだり、天気予報に掛けたのは、雅堂錬丸だと思い込んでしまうのである。 そして、その後、画面が変わって、三嶋鳴海の姿が映ることで、錬丸視点から鳴海視点に切り替わったと思うのである。 しかし、本当は、主語を隠した行動は全て三嶋鳴海の行動だったのだ。 ∫ルートへ行けるようになって始めて、隠していた主語が明かされるのである。

いわゆる叙述トリックは、偏った情報を提示することで読者の誤認を誘導する技術である。 騙したい内容に都合の良い、すなわち、誤解を招くような情報は過剰に提示する一方で、核心を知るための決定的情報は見せないようにする。 トリックの存在が悟られるとトリックの内容を見破られる恐れがあるので、極力、意図的な情報省略を見破られないのが理想である。 その点で、この「トリック」は主語の省略を悟られないように上手く偽装している。 人物誤認だけに着目すれば、場面転換を明示しているから、非の打ち所のない叙述トリックである。 また、「IMU」やコーヒーのようなヒントをさりげなく残している所が心憎い演出である。

しかし、人物誤認は、本来の目的を達成するための手段でしかない。 この「トリック」の本当の目的は、読者の時間誤認を引き起こすことにある。 だが、両視点の物語を同時進行に見せ掛けた叙述詐欺がなければ、人物誤認が時間誤認に繋がることはない。 よって、本来の目的まで含めて総合的に評価すると、この「トリック」はトリックとは呼べない。 叙述トリックの条件に示すとおり、システム内の虚偽情報を必須条件とするものは、トリックではなく詐欺である。

このように、叙述詐欺に頼ってまでして実現した最大の「トリック」に致命的な矛盾を発見した人がいます。

なぜなら、このテキストが表示される直前の鳴海視点では、携帯は大手町の手の中にあり、また、このテキストの直後の文章中でも、鳴海の携帯は大手町の手の中にあります。
重要なのは、「私」は携帯電話を”取り出している”ということです。これはシチュエーション的に有り得ません。
もしあるとすれば、大手町から携帯を奪い、一旦しまった後で、また携帯を取り出して天気予報を確認し、もう一度大手町に渡す−という意味不明なプロセスを踏んでいることになるわけで。

確かに、このシーンの前には、雪積真琴からのメールを読ませるために、三嶋鳴海は大手町に携帯を渡しています。 そして、三嶋鳴海が携帯を取り返そうとするのを大手町が華麗にかわし、返すための条件を言い含めたところで錬丸視点に変わります。 その後、再び、鳴海視点に戻ったとき、大手町は携帯をいじりながら雪積真琴からのメールを調べています。 三嶋鳴海が携帯を取り返したのはその後です。

また、天気予報に掛ける時には、確かに、「私」は携帯を取り出しています。

・・・・・・実際一番高い可能性は、”大手町が鳴海の携帯を持っている”という矛盾点に製作者が気づかなかった、というものだと思うのですが。

それだっ!!!・・・最大の「トリック」のはずなのに、それすら辻褄合わせが出来てないとは、何とも情けないことで。

錬丸の制服と眼鏡

鳴海視点の雅堂錬丸が眼鏡をかけ、リブロクの制服を着て、伊野瀬オメガの学生証を持っていた理由は、次の説明による。

チサト「A世界でXくんを殺し、現世界に戻ったらー」
錬丸「現世界に戻った瞬間に『Xくんが死んだ』という歴史が確定するわけか・・・」
チサト「そういう事」

A世界で着替え終わった雅堂錬丸を伊野瀬チサトが観測して現世界に戻ったからである。

バスタブの真琴

現世界21日午前3時半頃、雪積真琴は、ガムとホースとダイビングマスクで呼吸を確保し、30ダース分のロード・モンテ・エイドを入れた湯船に漬かり、ノートパソコンでディビジョンを再生し、馬の首を乗せて浴槽内にダイビングした。

また注釈欄で真面目な科学考証をしてみる*10*11

真琴×錬丸

何故、マイナは自分が高江ミュウを連れて、雪積真琴の面倒を雅堂錬丸に任せたのだろうか。 普通、順当に考えれば、雪積真琴の面倒を自分で見て、高江ミュウを雅堂錬丸に任せないだろうか。 これは、恐らく、三嶋鳴海の記憶から、雪積真琴が雅堂錬丸に携帯電話を託すという情報を得ていたからではないだろうか。

12分ルール

伊野瀬チサトの説明によれば、コデックスをインストールされているのは2人だけである。そして、それは、霧寺メイによれば、霧寺メイと高江ミュウである。よって、2名以外は、コデックスをインストールされておらず、12分を超えてA世界に留まると自力では現世界に戻れなくなる。

さて、組織はコデックスをデータ化していたのだろうか。コデックスをデータ化すると、データ流出の危険性が生じ、全人類愚民化計画にとって致命的となる。高江ミュウを始末しようとした理由が、コデックスの流出を恐れてのことであったので、計画に支障を来さないようにするには、データ化しない方が安全と言える。仮に、データ化したとしても、管理を厳格にするなど、流出を防ぐ努力が必要となる。

伊野瀬オメガ

錬丸ルートでは、雅堂錬丸と伊野瀬オメガは、最初の駅に入る前から話し始めて、線路に降りた後、次の駅のホームに上った後まで話を続けている。この間、途中で伊野瀬オメガが席を外した様子はない。駅間の移動距離にもよるが、この間、伊野瀬オメガは12分以上A世界に留まっている疑いがある。ただし、錬丸ルートの伊野瀬オメガは現世界に戻ったかどうかはっきりしない。鳴海ルートでバスタブから発見された時も、手足を手錠で繋がれているなど、ダイブしっ放しだった可能性もある。

∫ルートには伊野瀬オメガが12分以上A世界に留まった描写はない。雪積真琴の裏切りが確定するのは、A世界の21日の9時頃である。裏切りを理由に、現世界の21日15時前後に雪積真琴を殺害しようとしたのだから、この時の、伊野瀬オメガのロープ長は6時間以内でなければならない。実際に裏切りを知ったのは、新東京電波塔でマイナと接触した時、すなわち、A世界の21日の11時すぎ頃と思われるので、ロープ長は更に短くなる。ロス・タイム等やコデックスの管理上の問題を考慮すると、12分ダイブを決行していたと考えるのが自然だろう。

ちなみに、ホテルRev.612号室でいろいろ喋ったのは伊野瀬オメガの「識域下」の取った行動である。何故なら、伊野瀬オメガは次のように言っているからである。

オメガ「俺の自我は、とっくにどっかに行っちまってるからだよ」

この物語では個人の意識を「識域下」と「自我」に分類しているのだから、「自我」がどっかに行っているのならば、残っているのは「識域下」だけのはずである。よって、この時の行動は純粋に「識域下」だけによるものである。その詳細は後述する。

伊野瀬チサト

伊野瀬チサトは自ら12分ルールに縛られると明言している。

霧寺メイ

霧寺メイは自ら12分ルールに縛られないと明言している。実際に、12分を超えてA世界にいる姿が雅堂錬丸によって確認されている。

一方で、現世界でもA世界でも、21日に様々な行動をとっていることから、ロープ長はあまり長くはないはずである。任意の時間滞在するつもりなら、13分くらいで十分である。12分を少しでも超えれば、コデックスなしには現世界に戻れなくなる。そして、コデックスを見るタイミングを自由に変えられるなら、任意のタイミングで現世界に戻ることができる。

A世界のΨ

A世界で雅堂錬丸は伊野瀬オメガの銃弾をかわしたが、これが決してまぐれでないことは、次の文章から伺える。

見える・・・。弾が見える・・・。
その弾道が・・・。軌道が・・・。
ひらりひらりと身をかわす。

適当に動いていたら運良くかわせた・・・というものではなく、明らかに弾道が見えていてかわしたのである。さて、これはどんな方法によるのか。答えはである。いや、ひとつくらいそんな答えでも良いだろう。ひとつだけだったらな・・・。

お兄ちゃん

お兄ちゃんっぽい人をお兄ちゃんと呼んでいいとドレスデン・コデックスに書いてあるかどうかはさておき。

雅堂錬丸が7歳のマイナと逢った方法だが、結論から言えば、Ψではなく、マインド・フュージョンである。2012年6月6日、ヴィーナス・トランジットを見ている三嶋鳴海の手を霧寺メイが取り、もう一方の手を雅堂錬丸とつなぐことで、三嶋鳴海と雅堂錬丸がマインド・フュージョンしたのである。マイナは三嶋鳴海の「自我」であるので、三嶋鳴海とマインド・フュージョンすれば、マイナともマインド・フュージョンできるのである。いや、三嶋鳴海がコデックス見たから、マイナはもうA世界にいないんじゃないの?と思う人は次の台詞を思い出して欲しい。マイナは未だに1人でA世界に取り残されたままなのである。

霧寺「姉貴がコデックスを見ても、古い方の自我は、現世界には帰って来ないんだよ」

雅堂錬丸が三嶋鳴海を通じてマイナと接触した結果、三嶋鳴海とマイナの間に新しい情報経路が形成された。その結果、マイナのブレーキは中断され、その後、三嶋鳴海と同じ速度で未来に進めるようになった。新たな情報経路の形成によって、マイナは20年後の三嶋鳴海から情報を引き出せるようになったのである。ヴィーナス・トランジットを見たのは、三嶋鳴海からリアルタイムの情報を引き出せたからである。

鳴海操縦法

マイナと20年後の三嶋鳴海の情報経路が形成されたのは、先に述べたとおりである。しかし、それでは、幼い頃に、RNAの塩基配列をパソコンに入力したことを説明できない。では、どうやって、それを実現したのか。それは、次のマイナの台詞にヒントがある。

錬丸「じゃあ、お前が、自分自身の手で、グラスを守ろうとしなかったのは・・・?」
マイナ「してますよ。守ろうとしています。今も・・・」
マイナ「けれどそれは、私1人の力では不可能・・・」
マイナ「どうしても、協力者が必要だったのです」
マイナ「さっきも言ったとおり、A世界で改変された歴史は、現世界に戻らない限り、事実として発現することはありません。」
マイナ「私が、この世界で何をしようと、無駄なのです」
マイナ「グラスを割ろうと、守ろうと、たとえ核兵器の発射ボタンを押したとしてもー」
マイナ「それが、現実のものとして現れることはないのです」
錬丸「だが、お前が現世界に戻れば・・・」
マイナ「戻れません。もう戻れないんです」
マイナ「私の本体は、20年も先の未来にあります。あまりにも距離が離れ過ぎてしまっていて・・・」
マイナ「しかも、その本体にはすでに、新たな自我が芽生えています」
マイナ「私には、還る場所はないんです、どこにも・・・」
錬丸「・・・」
マイナ「私が現世界に干渉するための、唯一の方法はー」
マイナ「今の、現在の、2012年5月21日の本体と、重なること」
マイナ「けれどもそれは、ほとんど不可能に近いことで・・・」
マイナ「出来たとしても、極わずかな、限られた時間しか・・・」

話の流れから見て、【自分は現世界に戻れないから協力者が必要だった】で説明は終わってるはずである。Ψの原理を踏まえた上での話なのに、現在の本体と重なるなどという話が出て来るのは不自然だろう。それも不可能とは断言せずに、不可能に近いと曖昧な言い方をしているのが怪しい。本当に不可能なら「出来たとしても」などとは言わないだろう。おそらく、完全に不可能ではないことをマイナは知っているのである。ただし、マイナ自身も実現するための条件を完全に把握していないのだろう。だからこそ、曖昧な言い方になるのだろうと思われる。運良く出来る時は出来るが、出来ない時は全く出来ない。そして、確率的には失敗の方が圧倒的に多い。それが、この言い方から読み取れる事実である。

マイナが「現在」の本体=三嶋鳴海と重なった経験があるからこそ、回想シーン(2004年6月8日)で、三嶋鳴海はヴィーナス・トランジットを見た事あると言ったのだろう。1992年6月6日、20年後の三嶋鳴海が見たヴィーナス・トランジットであるが、それをマイナは垣間みることができた。そして、その後、マイナが「現在」の本体=三嶋鳴海(当時は真稲鳴海)と重なる事によって、三嶋鳴海にはヴィーナス・トランジットの記憶が植え付けられたのである。

しかし、それにしても、「極わずかな、限られた時間」で、何ページにも渡るRNAの塩基配列をパソコンに入力するとは、7歳マイナ恐るべし。・・・と思うかもしれない。しかし、必ずしも、「極わずかな、限られた時間」で塩基配列をパソコンに入力する必要はない。「極わずかな、限られた時間」しか出来ないのは、「今の、現在の本体と、重なること」であって、パソコンへの入力作業ではないのだ。三嶋鳴海が一度見た物を忘れないCPS能力を得たのは、「自我」が「識域下」から産まれたからと説明されている。それならば、元になった「識域下」そのものにもCPS能力が備わっているはずである。ということは、「極わずかな、限られた時間」で「今の、現在の本体」に情報だけ送っておけば、以後は、「今の、現在の本体」が完全に憶えているはずである。だから、「極わずかな、限られた時間」が過ぎた後で、ゆっくりと、パソコンに入力すれば良い。いや、当時の三嶋鳴海(当時は真稲鳴海)はエクリプシーだから自発的行動は無理じゃないか・・・と思うかもしれないが、だからこそ、三嶋鳴海(当時は真稲鳴海)には暗示が効くのである。「極わずかな、限られた時間」に、「今の、現在の本体」には、情報だけでなく暗示も送っておけば良いのである。そうすれば、後は、エクリプシーの三嶋鳴海(当時は真稲鳴海)が、暗示に従って黙々と作業してくれるのである。

尚、この能力の設定は、原則、マイナ以外には適用されない。というのも、「ほとんど不可能に近い」と言っているからである。後述する「未来予知」については、「慣れている人間じゃない限り」「自在にコントロールするのは容易な事ではありません」という言い方をしており、「ほとんど不可能に近い」という表現はしていない。この能力についてだけ「ほとんど不可能に近い」と言っているのは、極めて異例の例外能力であることを示している。これは、言い替えると、マイナにのみ適用される設定であるということである。マイナは、20年後の未来予知を「自在にコントロール」していると思われるので、他に使える人間がいたら、当然、そのことを知っているはずである。他に使える人間の有無を知ったうえで「ほとんど不可能に近い」と言っているのだから、使える人間が多数居ては辻褄が合わない。そして、この場面で、マイナが雅堂錬丸に嘘をつかなければならない合理的理由もない。よって、「ほとんど不可能に近い」との表現は、マイナの能力が例外設定であることを示唆していると考えられる。もちろん、他にも使える人間が全くいないとは断言できない。しかし、マイナの能力が例外設定と示唆されている以上、他の人物が同様の能力を使ったと推測するためには、それを示唆する明確な描写が必要と考えるべきだろう。

エクリプシー症状の差

星野遊々の場合、エクリプシー状態では、自発的に見える行動がほとんど失われ、腑抜けになったように見える。一方で、伊野瀬オメガの場合、エクリプシー化する以前の怒気が失われて淡々とした語り口調にはなるが、受け答えはハッキリしていて星野遊々のような腑抜けのようにはなっていない。確かに、エクリプシー化の前後で感情的な変化は認められるし、雅堂錬丸のような熱血さが感じられないなど、健常者との差も見受けられるため、エクリプシー症状が発生していることは間違いないのだろう。

以下、鳴海ルートでの会話。

鳴海「で、具体的な症状は?」
大手町「それが何とも言い様がないんだ。症状は様々で、患者の中には記憶を無くす人もいるし、言葉を無くしてしまう人もいる」
鳴海「つまり・・・真琴の場合は言葉を無くしてしまったと・・・」
大手町「真琴の場合はさらに深刻で、記憶も無くしてしまっているかもしれない」
鳴海「あ!」
大手町「どうした?」
鳴海「オメガ・・・」
大手町「そうだ、彼もその疑いがある。が、その話はもうちょっと進めてからにしよう」
私は大手町の言葉に従った。
大手町「彼らエクリプシーは一見、健常者と同じように見える人々もいるが・・・」
鳴海「いるが?」
大手町「そいつらも、どこかおかしい。まるで・・・まるで・・・ロボットのようになってしまうというか・・・」


大手町「そこが、この病気の特徴なんだよ。健常者と患者の境界があいまいなんだ。区別することが難しい。患者自身が異変を訴えてくる事もない」
鳴海「・・・」
大手町「あるいは、こう考えることもできるだろう。エクリプシーは、元々たくさんいた。だが、それが病気だという事に、誰も気付かなかった」
大手町「重力と同じさ。それは初めから、元々地球に存在していたものだった」
大手町「けれで、あまりにも当たり前の事過ぎて大昔の人間は『地球に重力がある』何て事は考えもしなかった」
大手町「それが『在る』という事に気付いたのは、ニュートンが発見してからだ」
鳴海「エクリプシーも同じだと?」
大手町「『同じだ』とは言ってない。そういう考え方もできる、と言っただけだ」

症状に個人差があることは大手町が説明している。そして、大手町と三嶋鳴海との会話の中で、エクリプシーにも関わらず、一見健常者に見える潜在的患者の存在が示唆されている。伊野瀬オメガのケースは、正に、この一見健常者に見える潜在的患者の症状そのものであろう。

両者の中間的な症状として、雪積真琴からのメッセージを三嶋鳴海に伝えた男が挙げられる。三嶋鳴海がエクリプシーを疑っているように、彼の受け答えはエクリプシーの様にも見える。だが、聞かれてもいないことをわざわざ答えたり、完全に受け身の応対ではない。そもそも、完全に受け身の応対ではクイズを出し、その答えで本人かどうか判別することなど出来ないだろう。そして、自分の好きな話題になると若干熱がこもったような受け答えが見られる。

このような個人差は何処から生じるのだろうか。マイナの説明どおりに人間の行動の99.9995%が「識域下」の働きによるならば、「識域下」こそがその人の素の状態であると言える。つまり、エクリプシーは、その人の素の状態がむき出しになっているに過ぎない。だから、エクリプシーであっても、その人が日頃から慣れ親しんだこと、訓練を受けたこと、心から好きなことであるならば、健常者と全く同じ反応が返せるのである。逆に、不慣れな環境に置かれたり、不慣れな会話を求められた場合は、まともな応対ができなくなる。つまり、「自我」と「識域下」への依存度がエクリプシー症状の個人差へと反映されると考えられる。

星野遊々の場合は特殊で、エクリプシー以前から、「識域下」からの「自我」への情報伝達経路の一部が遮断されている。そのため、日頃から、「識域下」では人間の本能に基づく反射以外の行動は取れなかったのではないかと思われる。つまり、日頃の「識域下」への依存度が低い=「自我」への依存度が高いため、「自我」が失われた状態では腑抜けになったのではないかと考えられる。

一方で、伊野瀬オメガは、日頃から何らかの訓練を受けていたか、あるいは、何らかの暗示を掛けられていた可能性がある(故意にエクリプシー状態にして暗示をかけておけば、より効率的に身の守り方を習得させやすくなる)。というのも、Ψ使い達は、Ψ使用中は無防備な状態に置かれるからである。それが事前に分かっているなら、エクリプシー状態でも身を守れるような対策を講じるだろう。 だとすれば、伊野瀬オメガにも、当然、そのような対策を実践しているはずである。

さて、では、あの時点で、伊野瀬オメガが取るべき行動は何か。

  • 自分の身の安全を確保すること(殺されては生き返れない)
  • Ψが完了するまでの時間稼ぎをすること
  • 第弐エクリプス計画を妨害させないこと(決して重大な情報は漏らさない)

伊野瀬オメガは、確かに、そのように行動している。相手の興味を引くような話を持ち出しながら、かつ、決して核心は話さない。時間稼ぎをしながら、身の安全を守りつつも、計画妨害につながるような重大情報は話していない。ならば、その行動の裏には、何らかの訓練等があったと考えるのが自然だろう。

未来予知

マイナは次のように言っていた。

マイナ「このA世界で、未来予知のような事を、経験した事はないですか?」
錬丸「あ、ああ・・・あるけど・・・」
マイナ「だとしたら、それも識域下との乖離によって、説明する事ができます
マイナ「錬丸くんの識域下は24時間後の未来の世界にあって、それまでに起こった出来事の全てを記録しています」
マイナ「ですから、そのデータにアクセスする事さえできれば・・・」
錬丸「未来予知も可能だと・・・?」
マイナ「そうです」
マイナ「ただし、自在にコントロールするのは容易な事ではありません」
マイナ「慣れている人間じゃない限り・・・」
錬丸「お前は・・・どうなんだ?」
マイナ「私は・・・」
マイナは言いよどみ、東の空へと目を向けた。
日蝕はじわりじわりと進行している。
光が失われて行くに連れ、マイナの表情は一段と重々しいものへと変わっていった。
マイナ「私には、可能です」

A世界の雅堂錬丸が行なった「未来予知」については、容易ではないが可能だと明言されているのである。以上、説明終わり。

では、三嶋鳴海が行なった「未来予知」については、どうだろうか。これは、マイナによる鳴海操縦法と併せて考えると良い。この説明によれば、マイナは20年後の三嶋鳴海から容易に情報を引き出せる。そして、先にも述べた通り、「極わずかな、限られた時間」ならば、同時刻の三嶋鳴海に干渉して、かつ、自らの記憶を三嶋鳴海に送り込むこともできるのである。それによって、三嶋鳴海に「未来予知」をさせることが可能になる。

だが、まだ、2つの問題が残る。1つは、現世界側の雅堂錬丸の情報源である。現世界の雅堂錬丸は、伊野瀬オメガが敵で霧寺メイが味方だという情報を何処から得たのだろうか。結論から言えば、伊野瀬チサトである。一方で、三嶋鳴海が伊野瀬チサトからΨの説明を受けたのは∫ルートの0時の章の終盤から1時の章の最後までにかけてである。このとき、伊野瀬チサトは頼まれたから説明したと述べている。そして、頼んだ人物が雅堂錬丸であることを、後で、明かしている。では、頼んだのは、何時か。21日の新首都圏電波塔でのバトル以前に頼んでいたとすると、説明するのが遅すぎる。それ以前から伊野瀬チサトは三嶋鳴海と何度も接触していたはずであり、22日の0時台になってから唐突に説明しだすのは遅い。さらに言えば、A世界側の雅堂錬丸は、マイナの本体である三嶋鳴海とは面識がない。A世界側の雅堂錬丸が、【24時間後の現世界で三嶋鳴海がどんな活躍をしたか】を知るようなシーンはない。それ以前に、A世界側の雅堂錬丸は、三嶋鳴海の存在自体を知らなかった。A世界側の雅堂錬丸が、三嶋鳴海の存在を知るのはマイナの正体を知った後である。その後、三嶋鳴海の詳細を聞き出す間もなく、マイナは拉致されている。マイナを救出した後、すぐ、誕吾「拉致」事件が発生しているが、この時が、A世界側の雅堂錬丸が伊野瀬チサトと接触した最後の描写である。しかし、この時、伊野瀬チサトは、高江ミュウを連れて観覧車に乗った後、姿を消しており、雅堂錬丸は伊野瀬チサトに頼み事をしていない。その前の2人の接触はマイナ救出前である。この時も、頼み事をした様子はない。明確に描写されたシーン以外での2人の接触がないと仮定すると、A世界側の雅堂錬丸は、三嶋鳴海の存在を知った後に伊野瀬チサトに頼み事をする機会が無かったことになり、Ψの説明をするように依頼することはあり得ない。以上のことから推測すると、説明を頼んだのは21日正午以降の現世界の雅堂錬丸であろう。現世界の雅堂錬丸が三嶋鳴海の前から消えたのは17時18分以降の17時の章で、再会するのは8時の章である。雅堂錬丸はこの間に「自我」を取り戻し(後述するが、正確に言えば、取り戻したように見えるだけ)、伊野瀬チサトと逢ったのである。もし、雅堂錬丸の行方が分からなくなった直後に伊野瀬チサトと接触したとしても、新東京電波塔でのバトルは5時間以上前に終わっているから、12分ルールに縛られる伊野瀬チサトは敵味方の正確な情報を掴んでいてもおかしくない。だから、伊野瀬チサトは雅堂錬丸の情報源となることができる。

もう1つの問題は、三嶋鳴海が雪積真琴を自宅に連れていこうとすると、雪積真琴が死ぬイメージがわくことである。雪積真琴を自分の自宅に連れていったのは、鳴海ルート(パラレルワールド?)での出来事であり、∫ルートでは発生していない事実である。よって、20年後の未来の三嶋鳴海は知らないはずである。経験しないはずの未来を「未来予知」できたのは何故か。これも回答を先に言えば、「未来予知」ではなく、未来の情報を元にした推測に基づく警告だったのである。鳴海ルートで三嶋鳴海の自宅のセキュリティが突破されたのは6時の章(正確な時刻は表示されない)であり、7時の章で雪積真琴は絶命していた。一方、∫ルートでは、7時の章に雪積真琴の病室が襲撃されている。∫ルートで病室を襲撃する時刻よりも前に、鳴海ルートで自宅が襲撃されたのはどういうことか。これは、∫ルートでは襲撃されるまで病室に雪積真琴がいないことがリミナリティにバレていないのに対し、鳴海ルートではもっと早くに雪積真琴が三嶋鳴海の自宅にいることがバレているということである。ということは、次のいずれかが正しいと考えられる。

  • 病院前でのバトル直後に雪積真琴を連れ出すと、その場面をリミナリティ側に目撃される
  • 三嶋鳴海の自宅がリミナリティ側にマークされていた*12

いずれにせよ、20年後の三嶋鳴海はそのことを知っていたのである。だから、マイナは雪積真琴が死ぬイメージを三嶋鳴海に見せることで、その時点で雪積真琴を連れ出すことか、あるいは、三嶋鳴海の自宅に連れ帰ることを阻止したのである。しかし、それでは、雪積真琴の命は1〜2時間しか伸びない。どうして、雪積真琴の命を助けようとしなかったのか。それは、恐らく、何処に逃げても死を免れることは出来ないと知っていたからだろう。∫ルートで病室が襲撃された後、僅か1時間で雪積真琴が殺されている。何処にいるか分からないはずなのに1時間で居場所を突き止めて殺害を実行できるなら、何処に逃げても直ぐに見つかって殺されるだろう。何処に逃げても死のタイミングが多少前後するだけに過ぎない。しかし、マイナにとっては、このタイミングの差が重要なのである。マイナが雅堂錬丸をA世界に引き止めた理由は、妹である高江ミュウを救うためである。高江ミュウを救うためには、三嶋鳴海に警告メールが送られる歴史を守らなければならない。20年後の三嶋鳴海は警告メールが届いた経緯を聞いているはずである。それならば、マイナもたった1時間の攻防の重要さは理解しているはずである。マイナは、たったそれだけのために、雪積真琴が死ぬイメージを三嶋鳴海に送ったのである。

補足

未来予知は「識域下」と「自我」が通常経路の通常の方法で情報をやり取りするわけでない。これは、Ψの仕組みの以下の原理説明を思い出してもらいたい。

ミュウ「A世界っていうのは『識域下から大幅に遅れを取る事によって経験される自我の世界』の事で・・・」

通常経路の通常の方法で情報をやり取りするならば、「識域下から大幅に遅れ」がなくなり、現世界に戻ってしまうはずである。だから、未来予知における「自我」と「識域下」のアクセスは、通常のアクセスと同じではない。おそらく、未来予知では、「識域下」から得られる情報は、通常アクセスに比べて、極めて限定的と思われる。

また、「自我」が「識域下」から情報を引き出せるように、「自我」から「識域下」への情報伝達も可能である。星野遊々がICU前で青髪の少女に早く起きろと騒いだとき、24時間前のA世界でも、星野遊々は病院で昏睡状態の少女を見ていた。このとき、A世界の「自我」が現世界の「識域下」に干渉したのだと思われる。つまり、星野遊々の「自我」と「識域下」の差も24時間だったのだろう。

メガネ錬丸の「自我」

Ψの原理、他の描写との整合性を考えれば、鳴海視点での22日12時以前の雅堂錬丸にはエクリプシー症状が現れていなければならない。しかし、∫ルートの現世界22日午前中の雅堂錬丸は、何故か、「自我」を取り戻したかのように、強い自発的意志に基づいた行動を取っている。しかも、A世界の雅堂錬丸も知らないはずの真相を知っている。これに対応する「自我」は、まだ、A世界21日から帰ってきていないはずだし、その時の雅堂錬丸の「自我」は真相の殆どを知らされていない。また、三嶋鳴海×マイナの場合、「古い方の自我」は現世界に帰って来れなくなっている。それに対して、雅堂錬丸は新しい「自我」が産まれても「古い方の自我」が現世界に帰ってきている。これでは、設定の整合性が取れない。

エクリプシー症状と記憶補完

先にも述べた通り、大手町は、エクリプシー症状には個人差があり、記憶喪失症状もそのひとつだと言っている。 そして、雅堂錬丸には記憶喪失症状が発現していた。 しかし、それ以外のエクリプシー症状は描かれていない。 というより、自発的な提案・質問をしたり、三嶋鳴海の言動にツッコミを入れたり、エッチな状況に照れたり*13と、明らかに他のエクリプシーとは違う反応が描かれている。

鳴海「じゃ、行くわよ」
オメガ「ちょっとまって鳴海さん」
鳴海「はい?」
オメガ「何しに行くんですか?」

魂を失う病気と言われ、「識域下」がむき出しで暗示がかかりやすいエクリプシー患者であれば、「行くわよ」と言われれば黙ってついて行くのではないだろうか。 「ちょっとまって」と引き止めて詳細を聞き出そうとするのは何か変だ。

オメガ「鳴海さん・・・チサト・・・姉さんのところに行って良いですか?」

この台詞によれば、雅堂錬丸は自分の意志で行動を選択している様に見える。

オメガが大学病院の喫茶「跡海」のカフェテラスにいた。
鳴海「オメガ!目が覚めたようね」
オメガ「あ、はい」
鳴海「なんでこんなところにいるの?ICUで待ってれば良かったのに」
オメガ「なんでだろう?分からないです。いてもたってもいられなくて・・・。やっぱり、犯人許させないって思って・・・」
鳴海「そっか・・・」

これも、自発的意志に見える。

オメガ「霧寺に会ったんですか?
あ・・・。
オメガ「逃がしちゃったんですか?
鳴海「・・・ごめん・・・」
オメガ「鳴海さん、真面目に捜査するつもりあるんですかぁ?
鳴海「うるさいわね、ちゃんとあるわよ。ちゃんとあるから重要そうな事色々聞いたんじゃない!」
オメガ「そうは見えないな」

魂を失う病気と言われ、「識域下」がむき出しで暗示がかかりやすいエクリプシー患者が、これだけの反抗的なツッコミを繰り返すだろうか。

オメガ「・・・僕は、記憶がないんです。正直に言うと、姉への感情も一生懸命奮い立たせているだけです」

エクリプシー患者が感情を一所懸命奮い立たせるのは違和感がある。 もしかすると、特別チーム結成の時に言われていたような特殊能力が雅堂錬丸には備わっているのかも知れない。 その能力がエクリプシー症状の個人差を生んだのかも知れない。 しかし、その詳細については、既出技術設定の枠内を大きく外れるので、ここで論じることに意味がない。

とにかく、確実に言えることは、雅堂錬丸のエクリプシー症状について、明確に描写された症状は記憶喪失だけであることだけは間違いない。 症状の差の項で説明したように、【エクリプシーは全て星野遊々のようになる】とする認識は正しくない。 伊野瀬オメガのように、健常者との差が極めて小さいケースも明確に描かれている。 単純に記憶喪失症状だけで済む事例にも言及されている。 星野遊々のような極端な症状に至らない事例があり得ることは、しっかりと説明されていたのである。

さらに、鳴海ルートでボスが雅堂錬丸に受けさせた適性検査の結果は、通常のエクリプシー患者の能力を凌駕している。

ボス「判断力、理解力、感情の安定性、社交性、知能、どれをとってみても一線級捜査員並だ」

どうみても「自我」アリの雅堂錬丸は、気が短く、一線級捜査員並の感情の安定性はない。 高江ミュウに憎まれ口を叩いたり、社交性にも疑問がある。判断力や理解力も人並みにしか見えない。 とすると、エクリプシー状態の雅堂錬丸は、記憶喪失以外の症状がないと言うよりは、むしろ、記憶喪失以外は通常状態よりも能力が向上していると言った方が正しい。*14

通常状態と比べて劣っている点が記憶喪失だけならば、記憶を取り戻せば、健常者と同様の行動が可能になるはずである。 いや、必ずしも、元の記憶と同じ物を取り戻す必要はない。 極端なことを言えば、全く別の内容であっても、自発的行動を取れるだけの記憶を補完するのに十分な情報を得られれば、健常者っぽい行動が可能になるはずである。 だから、記憶を補完する情報を提供する謎の協力者が存在すれば、記憶補完は十分に可能である。

補完する記憶の条件

以上、言い替えると、雅堂錬丸が自発的(に見える)行動を取らないのは、必要な記憶が欠けているからである。人は、日頃から、意識してかせずかを問わず、一定の情報に基づいて行動判断している。たとえば、腹が減って食堂に行くのは、そこに空腹を癒すものがあると知っているからである。どうすれば空腹を癒せるのか、そのために必要な物が何処にあるかを知らなければ、食堂に行くという判断もままならない。雅堂錬丸は、記憶喪失のため、次の行動を判断するために必要な情報が足りない。情報が足りないからこそ、自分で次に取るべき行動を判断できないのである。

では、どのような情報があれば、雅堂錬丸は自力で行動判断が出来るのか。それには、まず、広く、かつ、十分な量の情報が必要である。先に挙げた物を食べる行為だけでも、人は多くの情報に頼っている。そして、人は物を食べるだけの生き物ではなく、いろいろな行動を取る。そうした様々な行動を取るには、各分野における広く、かつ、多くの情報が必要となる。とくに事件解決に向けた捜査をするなら、高度かつ大量の情報が必要になる。

また、信用できる情報でなければならない。信じた情報だからこそ、それを情報判断の礎にするのである。信じることの出来ない情報では使えない。

協力者の正体

先にも述べたとおり、行方不明の間に雅堂錬丸が伊野瀬チサトと逢ったのは明らかである。雅堂錬丸が「自我」を取り戻したかのように見えるのは∫ルートだけで、鳴海ルートには同様の描写はない。そして、雅堂錬丸が伊野瀬チサトと逢ったことが明確に描写されているのは∫ルートだけである。ついでに言えば、伊野瀬チサトはリブロクの学生寮に自由に出入りできるから、伊野瀬オメガの部屋の外で待機する雅堂錬丸を拉致することは十分に可能である。だから、伊野瀬チサトが何らかの鍵を握っている可能性が極めて高い。

さて、効率的に記憶補完を行なうには、どのような情報伝達方法があるだろうか。ここで、前述した補完する記憶の条件を思い出してもらいたい。雅堂錬丸に必要な記憶補完は、十分な量、かつ、信用できる情報を得ることである。その目的には、マインド・フュージョンがうってつけだろう。マインド・フュージョンを使えば、記憶補完を効率的に行なうことができる。高江ミュウの説明によれば、2人の頭の中のイメージを良く掻き混ぜて1つにするようなものらしい。雅堂錬丸も『直接接触性精神融合能力』、「肌と肌を触れ合わせることによって、お互いの思いを重ね、溶け合わせ、1つにすることができる」と言っている。単に思考を送信するだけのテレパシーのような生易しいものでなく、精神を完全に融合できるなら、通常の伝達手段よりも記憶に残りやすく、かつ、説得力のある形での情報提供が可能だろう(「百聞は一見に如かず」と言うように、言葉で聞くよりは映像等を見せられた方が説得力がある)。

では、協力者には、マインド・フュージョンは可能なのだろうか。伊野瀬チサトにもマインド・フュージョン能力があるのは明らかである。何故なら、高江ミュウを命の恩人と崇める理由を説明するために三嶋鳴海にマインド・フュージョンを行なっているのだから。よって、伊野瀬チサトならば、協力者になる資格は十分にある。

まとめると、雅堂錬丸は、マインド・フュージョンによって、伊野瀬チサトから新しい記憶を植え付けられたのである。決して、新しい「自我」が芽生えたのではない。だから、A世界にいる「自我」が戻って来るのに何の支障もない。もちろん、新しい記憶には、伊野瀬オメガが敵である等の新情報も付加されている。ついでに、何らかの暗示をかけられた可能性もあるだろう。そうして、雅堂錬丸は、リミナリティの計画を阻止するために、伊野瀬チサトと協力しつつも、それぞれは単独行動で事態の解決に向けて行動を開始するのであった。

  1. A世界で、雅堂錬丸の帰還後、マイナが伊野瀬チサトに情報提供(高江ミュウを守るには雅堂錬丸の活躍が不可欠・・・等の内容)
  2. リブロク学生寮で伊野瀬チサトが雅堂錬丸を拉致→記憶補完
  3. 一旦別れて、伊野瀬チサトは病院前のバトルに参戦
  4. その後、伊野瀬チサトと雅堂錬丸が再会→雅堂錬丸からΨの説明依頼
  5. 伊野瀬チサトが三嶋鳴海にΨの説明→マイナの協力でブラジャー外し(笑)

状況から推測すると、以上のようなやり取りがあったと思われる。

ダブルスタンダード疑惑

作者が、その時々の都合で、疑似科学理論とリアル科学理論の2種類を使い分けている、ダブルスタンダード疑惑がある。

  • エクリプシーは魂が抜ける病気=疑似科学理論
  • 錬丸の超人化=先に銃を抜いたガンマンが負ける原理byマイナ=リアル科学理論

他説との比較

以上の説明は、プレイヤーの干渉だの介入だのという考察よりは遥かにマシだろう。プレイヤー介入説は、単に荒唐無稽なだけでなく、物語の描写とも決定的に矛盾する。

プレイヤーが、次のことを知るのは∫ルートの9時の章である。

  • 雅堂錬丸がリブロクの制服を着る
  • 雅堂錬丸が伊野瀬オメガの学生証を手に入れる
  • リブロクのデータベースの伊野瀬オメガの写真が雅堂錬丸の写真に書き替えられている

よって、【伊野瀬オメガの学生証を持ち、リブロクのデータベースに伊野瀬オメガとして登録されているリブロクの制服を着た眼鏡の少年が雅堂錬丸である】と、プレイヤーが知り得るのは9時の章以降なのである。

鳴海視点で、眼鏡錬丸が伊野瀬オメガと激しいバトルを初めて繰り広げるのは∫ルートの8時の章である。ということは、8時の章より前の段階で、プレイヤーが介入しなければならないはずである。しかし、未だ、プレイヤーは必要な情報を得ていない。だから、8時の章の段階で、プレイヤーが眼鏡錬丸に介入するのは不可能である。

眼鏡錬丸が失踪するのは∫ルートの17時の章であり、プレイヤーが情報を得る16時間も前である。三嶋鳴海が眼鏡錬丸から目を離してから失踪に気付くまでの間、錬丸視点で起きた出来事は、慎久郎と騙し絵の見え方、他我問題、『ALL IS VANITY』、ミラージュ隊長への届け物について話したくらいである。この時、眼鏡錬丸の失踪を惹起させるような情報をプレイヤーは何も得ていない。ということは、やはり、17時の章の段階で、プレイヤーが眼鏡錬丸に介入することはあり得ない

以上のように、'''プレイヤー介入説では何一つ満足に説明できない。

じらし作戦

マイナは、何故、雅堂錬丸に直ぐ真相を話さなかったのか。結論から言えば、それでは怪し過ぎて信じてもらえないからである。また、マイナが雅堂錬丸に期待することは、21日11時55分の危機の回避であり、この時点では、慌てて真相を話す必要はない。

もし、逢った直後に真相をベラベラ喋り出したら、どうだろうか。敵か味方かも分からない人間が、見ず知らずの自分に対して、自称真相を話しているのである。それは、極めて怪しい。もしかすると、利害の一致する味方なのかも知れない。でも、何故、自分に白羽の矢を立てたのか・・・という疑問は残る。もし、敵だとすれば、自分を都合良く利用しようとしているのだろう。そう考えれば、相手の言い分を100%信じることは出来ない。信じてもらえなければ、雅堂錬丸がマイナの意に反する行動を取る危険性がある。そうなれば、マイナの目論見が根底から崩れかねない。

では、マイナは、何故、雅堂錬丸に真相を話したのか。それは、信じてもらえる下地が出来たからである。この時点で、雅堂錬丸は、次のようなことを経験している。

  • 伊野瀬チサトへの質疑応答
  • 病院で高江ミュウが消えかけたこと
  • 何度かの未来予知

雅堂錬丸にとって、ホテルグランティスのバトルで霧寺メイに敵対した伊野瀬チサトが、自分達の味方であることは疑う余地がない。高江ミュウを救うという伊野瀬チサトの行動基準は一貫している。味方であることがハッキリしているのだから、伊野瀬チサトから聞いた言葉は心理的に信じやすい。高江ミュウが消えかける前、マイナは、現世界の本体が死ねばA世界の「自我」も消滅すると警告していた。その後、実際に、高江ミュウが消えかけた。その原因は、マイナが言っていた、現世界の本体の危機以外に考えようがない。未来予知については、雅堂錬丸が体験したことと、その後の、マイナの説明の辻褄が合っている。

これら、雅堂錬丸の体験は、マイナの説明と悉く辻褄が一致する。最初の段階では、説明されても、その真偽を判断する情報が何もない。しかし、説明を始めた段階では、複数の事実関係と照らし合わせることができる。体験と照らし合わせて矛盾がないかどうかを検証すれば、信用できるかどうか一定の判断が出来る

机の端で落ちそうなグラスの話から分かるとおり、マイナは、雅堂錬丸を21日11時56分まで引き止めなければならない。しかし、最初の段階では、その説明が困難である。人は、信じる根拠がない場合、信じたい情報を信じる。雅堂錬丸は現世界に戻りたいと思っているのだから、現世界に戻るなと言われても、それを信じるのは難しい。仮に、一部分でも説明の真偽が確認できたなら、それに基づいて、現世界に戻るべきではないと信じることは可能かも知れない。しかし、最初の段階では、説明の一部分でさえ真偽を確認することができないのだから、現世界に戻るべきではないと信じることはできない。

一方で、マイナが説明を始めた以降は、一定程度の真偽の確認が可能なので、理由を詳細に説明してもらえれば、信じるべきかどうか判断できる。つまり、この時点で、マイナには、嘘や隠し事をする動機はなくなっている。嘘や隠し事をするよりは、詳細を話して、雅堂錬丸に納得してもらった方が都合が良い。

各ルートの関連性

∫ルート

錬丸ルートや鳴海ルートの出来事は∫ルートと明らかに違う。よって、錬丸ルートや鳴海ルートと∫ルートは、パラレルワールドのような関係になっている。

錬丸ルートと鳴海ルート

鳴海ルートのA世界は錬丸ルートになっているのだろうか。錬丸ルートの現世界は鳴海ルートになっているのだろうか。結論から言えば、そうなっていない。何故なら、次のような不整合が見られるからである。

  • 鳴海ルートでも、高江ミュウは青髪でリブロクの制服を着ていて指輪をはめている
  • 鳴海ルートでも、雅堂錬丸がリブロクの制服を着て眼鏡をはめている
  • 鳴海ルートでも、雪積真琴は殺された

高江ミュウの容姿変更も、雅堂錬丸の容姿変更も、いずれも∫ルートで起きたことであって、錬丸ルートでは起きていない。錬丸ルートでは、指輪を作ることもなかった。また、錬丸ルートでは、雪積真琴の裏切りはなく、裏切り者としてリミナリティから始末される理由がない。だから、鳴海ルートと錬丸ルートが対になっていないのは明らかである。

全人類愚民化計画

計画は、自分達以外の全員をエクリプシーにしてA世界に追いやりつつも、自分達だけは現世界に留まることである。ここを勘違いすると頓珍漢な考察になるので気をつけたい。ハッキリ言って、リミナリティにとっては、A世界に行った人達がどうなろうが知ったことではない。極端なことを言えば、A世界の人達が全滅してもリミナリティにとっては何の不利益も生じない。何故なら、計画が成功すれば、誰もA世界から戻ってくることはなく、A世界の出来事を現世界に上書きする者はいないからだ。つまり、A世界で誰かが死んでも、それは、決して、現世界には反映されない。だから、現世界でエクリプシー化した人達を意のままに操る計画には、何の支障も生じない。

A世界の水源

A世界でライフラインは生きている。

マイナ「停電にはなっていませんし、ガスも水道も使う事ができます」

雨が降らないのに水道が使えるのはおかしいと言う人も居るだろう。確かに、かなり無理がある設定ではある。しかし、それを言うなら、他にもA世界には無理な設定が多々ある。不確定なことを理由に動物がA世界に存在しないなら、デパートの商品も不確定な存在だから、A世界には存在し得ない。永久に壊れない建造物はないのだから、A世界に20年も居るマイナにとっては、建造物だって不確定な存在だろう*15

しかし、これは、そういう設定だと受け入れる所であって、物語にとっては些細な問題に過ぎない。何故なら、それが駄目だと言ってしまったら、非現実的な設定を導入することは不可能となるからだ。非現実的な設定を導入する以上、現実に対する何らかの矛盾は避けられない。現実に照らし合わせれば、何処かに無理が生じるのは当たり前だ。それを許さないと言うなら、SFもファンタジーも成り立たない

大事なことは、ギミック等と整合するか等、物語内での整合が取れているかどうかである。物語に必要な設定であって、かつ、物語内での整合が取れているのであれば、設定その物の非現実性は些細な問題に過ぎない。それに対してどうこう言うのは、揚げ足取りに過ぎない。

塩基配列

レトロウィルスの塩基配列は何処から情報が発生したのだろうか。結論から言えば、論理的間違いの実例part2にあるとおり、方程式の係数が作り出した情報である。

しかし、レトロウィルスの塩基配列のような極めて複雑な情報が解として得られるのは、偶然にしては出来過ぎではないか。特定の解を導くように係数値を選別する働きが存在しないのだから、その解が得られることに必然性は認められない。必然性もなく、偶然にしては出来過ぎの解が得られる・・・というのはおかしくないか。

確かに、厳密な科学考証をすれば、その疑問は正論と言える。現実世界においては、複雑な物が出来る過程には、必ず、何らかの必然性が働いている。もちろん、それは100%の必然性(=同じことを繰り返せば同じ結果が100%再現される)とは限らないが、それでも、純粋な偶然に依存した時とは明らかに現象の発生確率が違う。例えば、生物の進化も、そうした弱い必然性で説明可能だ。それは、自然選択説と呼ばれる学説で、現在でも、進化論の主流学説である*16

しかし、12RIVENは現実ではなく作られた物語である。物語の条件にも書いたとおり、作り話に厳密な科学考証は不要である。いや、あまり厳密な科学考証を追い求めすぎると話を作ることが困難になる。だから、作り話における科学考証はホドホドに止めておくべきであろう。偶然でも説明不能な現象が起きては荒唐無稽すぎるが、偶然で片付くことであるなら十分に許容範囲と言える。

よって、方程式の解が、偶然、レトロウィルスの塩基配列となったと考えれば良い。

矛盾点

以下の詳細は12RIVEN考察 矛盾点をご覧ください。

  • Ψの実用性
    • 有効戦術
      • 侵入と脱出
      • 対「律儀者」戦
      • 閃光手榴弾
    • 無効戦術
      • 瞬間移動
      • 超回復
    • 不可能戦術
      • ダメージ反映
      • トラック落とし
      • 警察手帳
      • 酔拳
      • 対機動隊銃撃戦
      • 弾丸避け
  • 新首都圏電波塔の戦闘
    • 高江ミュウの参戦
    • Ψバトル
  • データベース改ざん
  • メガネ錬丸の超回復
  • A世界
  • 真琴の裏切り
  • 主体的関与
  • ミュウの嘘
  • メイの裏切り
Last modified:2010/10/08 20:58:21
Keyword(s):[12RIVEN]
References:[12RIVEN考察 矛盾点] [12RIVENウンチク] [プレイヤーの介入?] [12RIVEN駄考察] [12RIVENレビュー]
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*1 厳密に言えば、無いのではなく発動できないだけ

*2 何が間違いかと言えば、三嶋鳴海がトランプを破く所である。現実ならば、三嶋鳴海が手持ちのトランプを破こうとすることで、黄髪少女のトランプが破ける。何故なら、三嶋鳴海の手持ちのトランプは過ぎ去った過去であるからである。実際に干渉可能なのは、現在にある黄髪少女のトランプの方なのである。よって、以下の説明のような事は起こらず、「自我」の意思によって破けた現世界のトランプが正史として確定する。

*3 ここで論じている行動は「自我」が「識域下から大幅に遅れを取る」状態に限った事である点に注意してもらいたい。つまり、リアルタイムに「自我」が反応を返せない状態である。「自我」が反応できない特殊な状態であれば、「識域下の取った行動が正史として確定」したとしても、それは、その特殊状態に限った結論に過ぎず、「自我」が反応可能なときにまで当てはまるわけではない。よって、例え、この状態に限って「識域下の取った行動が正史として確定」しても、「自我には自由意思なんて存在しない事」にはならない。

*4 また、ここでの「自由意思」の解釈も、作者独自の物であって、準備電位の実験(映画館でのマイナの話を参照)をしたベンジャミン・リベットの解釈(岩波書店「マインド・タイムー脳と意識の時間」)等の専門家の見解とは違っている。

*5 「識域下がそれをしなかった」のは「自我」がトランプを破いたり大好きな人に告白しなかったからである。「自我」が自発的行動を取らない(もしくは、取れない)から現世界に「自我」が反映されないのであって、「自我」が自発的行動を取る事ができて、かつ、自発的行動を取るならば現世界に「自我」が反映されないことはありえない。Ψの説明は「自我」が自発的行動を取れないケースの事例であり、それは、「自我」が自発的行動を取れる通常の事例には当てはまらない。例示と論の前提条件が違っているのに、同じ物として扱う所が間違っている。

*6 そもそも、「識域下」と「自我」を別人と解釈することが間違いだろう。「自我」は甘い物が好きで、「識域下」は甘い物が嫌いってことはあり得ない。普通の人間なら、「識域下」の性質も「自我」の性質が反映されているはずである。いや、「識域下」が「自我」に反映されているのかも知れない。たとえば、恋愛感情は「自我」が意識的に発生させる物ではなく、「識域下」で芽生えた恋愛感情がある程度育ったときに「自我」が恋愛を自覚するのである。恋愛に限らず、あらゆる感情は「自我」が意識的に発生させるのではなく、「識域下」から自然に芽生えてくる物である。しかし、一方で、「自我」によって感情も影響を受ける。例えば、自分に害を為す行為に対しては通常怒りを覚えるが、そうせざるを得ないやむを得ない事情を知っていれば怒りを覚えずに同情を覚える事もある。また、意識した訓練で「識域下」の反応をコントロールする事もできる。いずれにせよ、「自我」が取り得ないような行動を「識域下」が取ることはあり得ない。そうでなければ、マイナの説明どおりに人間の行動の99.9995%が「識域下」の働きによる前提では、「自我」は、常時、自分の身体が自分の意に反する行動を取っていると感じていなければならない。また、現世界では殆ど意のままに動かなかった自分の身体が、A世界に来た途端に意のままに動くことを感じるはずである。現実においても、作中においても、そのようなことが起きていない以上、「識域下」と「自我」は一体の物であって、両者を別人のように捉えるのは正しくない。

*7 作品中では乖離限界の明確な言及がない

*8 原理的にロープ長よりは短くならない

*9 過程が上書きされるものと仮定する。現世界で右に移動しながらA世界で左に移動していたとしよう。この後、現世界を上書きすると、右移動が左移動に変わるだけで、瞬間移動にはならない。超回復についても、同様に、ダメージを受けなかったことになるだけで超回復にはならない。

*10 見たところ、ホテルの風呂は、蛇口から出たお湯を貯めるタイプで再加温できないようだ。殆どのホテルはそういう風呂になっている。雪積真琴は12時間近く浴槽に浸かっていたことになるが、最初は浴槽内を暖かくしていたとしても、それだけ時間が経てばかなり温度が下がっているはずである。水温+死亡時間で検索すれば資料が得られるが、水温20℃の場合、6時間で死亡率50%だとか。三嶋鳴海に発見されるまで生きていられるのだろうか。仮に、生きていたとしても、意識はないかも知れない。

*11 それ以前に、頸動脈切られてたら、アームロックを切断する間に余裕で死ぬのではないか。三倍「ええぃ、リミナリティの工作員は化け物か!?」ついでに・・・三倍「見せてもらおうか。リミナリティの工作員の性能とやらを。」「工作員の性能の違いが、戦力の決定的差でないことを教えてやる!」

*12 この時点で、三嶋鳴海は公安捜査官の一人に過ぎず、マークすべき重要人物と認識されている可能性は低い

*13 普通のエクリプシーなら性的衝動のままに行動しないだろうか。

*14 しかも、一線級捜査員並に能力が向上するとは、なんて凄い奴なんだろう。いや、逆に、本来持っている潜在能力を腐らせっぱなしのヘタレと言うべきか。

*15 短期滞在者にとってはほぼ確定した存在であっても、長期滞在者にとっては確定した存在とは言えない。現世界がA世界を上書きする設定は示されていない。もし、現世界がA世界を上書きするとすると、誰かがA世界にやってくるたびに、A世界の様子は変わってしまうはずである。また、誰かがA世界にやって来た直後は、現世界に居る人や動物の姿がチラッと見えてもおかしくない。しかし、物語中では、そうした描写は一切ないので、現世界がA世界を上書きすることはないと推測できる。だから、長期的に不確定な存在を後からやってきた人が確定させた・・・とする推測も成り立たない。

*16 余談だが、某宗教の熱烈信者が、「創造科学」の敗北(米国連邦裁判所が科学ではないと認定)のリベンジとして、現在の進化論が生物の進化を偶然で片付けていると勘違い(主流学説の自然選択説は必然性を説明する学説)して、「高等生物の進化は偶然では説明できない。人智を超えた何か(「神」とは明言しない)が生物の進化を導いたに違いない。」と、宗教色を薄めて作ったトンデモ理論が「インテリジェント・デザイン」である。